表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/67

第11話:凡人(モブキャラ)達の宴

火事のあった現場は昨日にもまして取材のクルーや献花に訪れた人で賑わっていた。通行人に聞き込みをする警官の姿もちらほら見える。焼け炭となった家は黄色いテープで囲われていた。


(モシ、ちょっと手前で降ろしてください・・・。)



彼女は事件現場の100m手前から、自転車を降りて、周囲をキョロキョロと見渡し始めた。視線の先はなぜか街路樹を重点的に見ているようにも見える。僕は僕で怪しまれないように自転車を降りて、こちらを見ている人がいないかキョロキョロと見渡した。勢いで来てしまったものの、冷静に考えてもしも昨日の目撃者からいれば、すぐにバレてしまうだろう。


「これ以上近くに行くのはちょっと危険かなと思うのですが。」


(ちょっとあそこの木まで、あそこが怪しいとおもうんです。)


そういうと彼女は駆けていってしまった。く、下手に大声を出して止めても怪しまれる。まったく怪しいのは彼女だ。木の根元と、幹から何かを”剥ぐ”と、彼女は急いでこっちに向かって来た。う、視線が集まっているまずい。


(タイラさん!これですこれ!!)


彼女の手には親指大の真っ黒な毛虫が6匹握られていた。


「え、毛虫ですよ?」


ー魔力結晶というからには、宝石の類だと思っていた。しかし。しかし、今目の前にあるのは真っ黒な毛虫。少々動きの緩慢な、真っ黒な毛虫だ!


(モシ?ケムシ?というのがわかりませんが、動いてるのが不思議なのですか?高度に魔力と魔素が濃縮したものはおおよそ動きますよ?私たちの世界では死ねば皆、徐々に魔力に分解して消えてしまいますし。生物だって変わりませんよ?)



ーさすが、武器と魔法のファンタジー、死ねば霧に、霞に、霧散するってわけか。


「そ、そうですか。わかりました・・・と、とりあえず、毒とかないんですよね?とりあえずもうここに用はないですし、帰りまー」


「そこの若いお二方、少しお話を聞かせてもらえますか?」



見れば、レポーターと思われる小ぎれいなスーツを着た男性と、片手には重そうなカメラを持ったふくよかな男性が10m程の距離から近寄ってくるところだった。



ー厄介ごとはゴメンだ!そもそも、注目を集めるのは良くない。あ、やめろ!何も言う前からカメラを此方に向けるのはやめろ!


「・・・ましょう!帰りましょう!」


犯人インタビューでしれっと白を切るなんてのは、展開にしては下手すぎる。ときどき、そういう話を耳にするが、犯人は何を考えてそんなことをするのだろうか。バレないことのスリルに興奮と優越感を感じているのだろうか。凡人にはただただ気が気でない。そして僕はそもそも犯人ではない。



「まって、待ってって!テレビ出れるよ!どう!どう?」



ーう、うざい・・・。


「さっき、お姉ちゃんたち木のあたりで探し物とかしてたでしょ?この辺よく通るの?その手の中のがそれ?」




ーズカズカと土足でパーソナルスペースに入ってくるタイプか。それでもてうまくやりきって来たのだろう・・・ああ!うざい!!!



「・・・え、毛虫??しかも素手?」



アニマは俯いて自分の手の中の”毛虫”をさっと隠した。


ーあうん。その気持ちは、わかる。そして、そこが悪目立ちするのはとてもわかるよ。カメラマンが明らかに手元に寄ってるし。これ、もう録画してるのか?あ、やめてあげて、当の本人は盗まれると思ったのか慌ててるでしょ。


(か、彼らは何を?)



彼女がエコバッグに”黒い毛虫”を大事そうにしまう動作と共に、僕にテレパシーを送った。



ーよし、もう行こう。こういう輩に気を使うのはあらゆる場面で悪手です。


「も、もう、行きますんで!」


「あ、でもほら、少し協力してくれたらこの番組特製のムーたんタオルあげますんで。ほら、ムーたん知ってるでしょ?非売品ですよ??」


ー知らないし、要らないよ。僕は今、彼女のこと以外何も考えてないよ。モブは去れ!


彼女に目配せをすると、すぐに察してくれた。自転車の向きを強引に帰ると、手前にいた彼女が荷台に飛び乗った。胸元まであろうかという彼女の青い髪がーー光に反射すると銀色にさえ見えるーー鼻先を掠める。性懲りも無く鼻の穴を膨らませると、前回のような違和感はなく、僕が使っているシャンプーの香りーーメリ○トだーーがした。胸が高鳴って仕方がない。もしもこれでやたらと高級そうな甘い香りでもしようものなら、自転車を漕ぎにくい事態になっていたことだろう。僕の下半身が。



「あー!ちょっと!」


振り返ることもなく、ペダルを踏む。相変わらず彼女は軽い。


ーなるほどこれが美少女補正か、と知ったような口を聞いてみる。心の中で。


 取材クルーの騒ぎに気づいたのか、前方100m先の男が振り返ってこちらを見つめている。やはり目立ってしまった。どうか邪魔をしないでくれ・・・頼む・・・。


「お、平じゃん? 何だよ、彼女いたのかよ!?」


ーなんだクラスメートの本田か。


手前まで近づくと、モブ・・・本田が話しかけてきた。


ー嬉しいけど、とにかく今は引っ込んでいてくれ。モブに用はないんだ。お前の幸せはなんとなく願っているけど、とにかくいまはモブに用はないんだよ・・・。



「ごめん、本田!またな!」



説明もめんどくさいが本田はクラスメートだ。と言っても、挨拶をするぐらいで、はっきり言って友達ですらない。ーーそして今後もう出てくることはないーー僕はすべてのモブキャラが振り切れるまで全力で自転車を漕いだ。

本田はもう出てくることはありません。絶対に。絶対にだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ