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第10話:悲劇は程々にして

 僕は彼女が気絶してしまったのを見届けると、掛け布団をかけて、シャワーを浴び、自分も毛布に包まって少しだけ仮眠をとれせてもらっていた。午後3時を過ぎようという時間になって、ガチャという音が聞こえて自分が寝入っていたことに気づいた。彼女は起き上がっていて、ローブに着替えていた。ローブはすでに乾いており、ガチャという音は今まさに扉に手をかけて飛び出す彼女から聞こえたものだった。



「あ、ちょ、ちょ、待っ!」


(探しに行かねばならないのです!)


「分かった、うん。分かったから、手伝うからちょっと待ってください!」


 とりあえずは事件の経過を説明して、ローブを着替えてもらった。さっきまで来ていたTシャツと、僕の持っていた灰色のパーカーとチノパンを着せると、細身の体にダボダボとした感じに愛嬌があって、それに彼女の青い髪が異様な上品さを奏でていた。こめかみにかかる黒い巻き角が、そこにいたずらっぽさを加えている。最後に銀縁の眼鏡をつけるとどこかサブカル風で、全てが僕の好みだった。そして、無類の可愛さに僕は一人慄いた。アニマは持ち物を手放したくないといったので、肩掛けの麻の袋ーーエコバッグだーーを渡す。その中に自分の持ち物をすべて入れて身につけるとあとは、靴として適当なサンダルをあてがい、変装用に帽子を渡す。



 準備の最中アニマには事件の概要を伝えた、血眼になってみんながアニマを探していること、そして今から出かける危険性についてだーーアライテルの家族が生きていることは隠しておいたーー。


(えっと、主様のご両親は救済(・・)できたのでしょうか?)


「えーと・・・はい。ちゃんと救われたようです。」


ーそうだ命は救われた。救済が人ぞれぞれとはいっても、出来心のレベル超えたらそこからはもはやただの傲慢に違いない。



「と、とりあえず、一回、”救済”は置いておいて、元の世界に帰ることだけを考えませんか?」


(モシ・・・それは・・・それは・・・)



 そういって、僕らは家を出た。アニマは相当自転車が気に入ったらしい。荷台にこの子を載せていたら、昨日の様子を知る人には怪しまれるんじゃないかとおもうが、彼女が乗るのが当然といった顔をしてい自転車の前まで先に歩いていた。


・・・



 事件現場への道すがら転移に教えてもらうことにした。ファンタジーってやっぱりワクワクする。ついでに町の説明もしつつアニマをうまく元気付けることにする。



(異なる世界と世界を繋ぐには、それぞれの世界に属するモノ同士が次元の断絶を超えて相互作用する必要があります。主様が転生された際にも、両方の世界で偶然にも大規模な災害によるエネルギーの揺らぎがあったものと考えられています。その場合には、魂が一部の記憶を持った状態で移動するだけで済むのだと仮定されており、こちらは残念ながら証明ができていません。あ!あのおいしそうな鳥はなんですか??)


「え?・・・おいしそう?・・・カラスといいますよ。」


(あれはカラスというのですか?真っ黒くておいしそかわいいですね。)


ーおいしそかわいい!?


「やっぱかわいいですよね?みんなカラスを毛嫌いしすぎなんですよ。」


(カラス、カラス・・・あ、えーと、どこだっけな。そうそう、異世界間の転移は転生とは違い空間魔法と一種の召喚魔法の組み合わせなのです。その際にはどちらかの世界で術者による大量のエネルギー変換が必要です。こちらにくる際には賢者の石と呼ばれる純黒の魔力結晶が3個ほど消費されました。それも主様が錬金されたもので、確か一つ作るのに、”数万人を材料にした”と言っていた気がします。ああ・・・だから代えが効かないのです・・・。)



ー"数万人を材料にした"、”魔力結晶が”、”3個”って?あーうん。もう僕は驚かないぞ。もう何言ってるかだいたい分かったけどもう突っ込まない。あーでも向こうの世界って人口多いのかな?もう全滅してたりしないよね。まったく実感がわかないけど。あまりにひどい話だ・・・。でもなんだろう、アニマに酷いことをしたことの方が頭にくるな。そんなものか。


「・・・あ。見てくださいあそこ。あれは平和のシンボル、ハトというんです!白い鳩は特に、幸福の象徴なんですよ?」


(えーと、あ、はい・・・可愛い鳥ですね・・・。)


ーだめだ、落ち込んでる・・・。そもそも女性の扱い方なんて知らないよ・・・。と、とりあえず、甘いものでも飲んだら元気とか出るだろうか???


「えっと、飲み物いりますか?」


僕は颯爽と自転車を自販機に横付けして、小銭を慌てて叩き込んだ。


{ガシャン}


{ガシャン}


{ガシャン}


{ガシャン}


ーあー、これは買いすぎたか?


「これは、炭酸といって、しゅわしゅわする飲み物です。ぶどう味ですよ。あ、向こうの世界にぶどうとかあるのかな?えっとそれと、これがココア。甘くていい匂いです。そしてこれはヨーグルトっぽい味のの・・・あーとなんて言えばいいんだ。牛乳ってわかりますか?わからない?ま、まあ飲んで見てください。そしてこれはお茶といいいます。葉っぱを煎じたものです。甘くないです。」


(はい・・・。)


彼女はヨーグルトっぽい味の飲み物ーーカルピスーーーをとると匂いを嗅いで一口。そして、次に炭酸を一口のんだ。


ーあ、炭酸が苦手だったっぽい


最後にココアを一口飲んで、目を見開いた。


(これ美味しいですね。)


ー他のやつはかごにでも入れておけばいいか。


僕はお茶を2口飲んで自転車にまたがった。

彼女は右手にココアの缶を持ったまま荷台に腰掛け、左手で肩を叩いてきた。僕が振り返ると、落ち着きを取り戻した顔ーーそれでも心なしか泣きそうなーーをしていた。



(なんだか、気を使わせたみたいで、すいません。)



ーココアくらいで女の子と2ケツできるならいくらでもするって!


「じゃあ、出発しますよ。」


僕はなんとなくお互いに意思が疎通してきたような気がして、自転車を漕ぐ足が軽くなったのを感じた。

よかったー異世界の人でも甘いものは心を落ち着かせるみたいだ。

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