第9話:彼女の名前は
シリアス回です。というか、”主様”が外道すぎて、彼がいるところシリアスあり。。。
「ひとまずそうですね、名前をまだいってませんでしたが、僕はタイラといいます。貴女のことはなんて呼べはいいでしょうか?」
(タイラさんですね。そうですね、一体なんて名前で呼んでもらうのがいいでしょうか?)
ー僕は”マリア”と呼びたかったが、宗教観的に色々とややこしくなるのでやめた。
(あ!モシ?主様が時々、”あ〜こういう夜にはアニメがみたい!”とおっしゃるのです。”アニメ”がなんのことかよくわからないのですが。さぞ素晴らしいものなのでしょう。私にはおこがましい話ですが、アニメと呼んでいただくのではダメでしょうか?)
ー教祖様の趣味がなんとなくわかってきた気がする。もしかしてこいつただの性的嗜好の片寄ったガキなんじゃないか?いやでも30歳なら、アダルトチルドレンだな?
「あ、アニメですか?アニメというのは、動く絵の総称を指すのです。あ、ちょっと見ますか?」
ーそそくさと僕はさっき畳んだーーあれが数時間前とは思えないほど昔に感じるーーノートパソコンを開いた。そそくさと最近流行っているのアニメのHPを開いた。もちろん異世界転移ものだ。
「えーと、アニメというと色々と違和感が仕事をしすぎているので、”アニマ”さんと呼んでもよろしいでしょうか?」
(アニマ!いい名前ですね!お願いしますタイラさん!)
ーあらやだ。可愛い。このまま時間が止まってくれればいいのになあと僕は本気で思った。
そして彼女、アニマは、ひとしきりアニメのことを知りたがったため、時間を忘れて一緒にアニメをみたり、日本のアニメ業界や、聞かれてもないのにその背景にある過酷な労働環境などを話した。
・・・
気付くと、カーテンの隙間から青白い光が見える。もうそんな時間なのか。すっかり関係ないような顔をしていたが、パトカーの音が相変わらず響いているのが聞こえる。昨日の事件のことはどうなったのだろうか?
ー僕はパソコンに釘付けになっているアニマをよそに、テレビをつけた。
「ーなお現在も犯人は逃走中とのことです。その場にいた若い男性を人質に逃げ去ったとみられおり、夜通し捜索が続いています。繰り返しますが、現場の様子から凶器は鋭利な刃物とみられており、現在も所持していると考えられるため見つけても刺激せず、すぐに警察にー」
(タイラさん、その薄い水晶はなんですか?)
ー彼女が振り返ると同時に僕はチャンネルを変えた。そうだ、彼女だって人を殺すことに慣れているわけじゃないだろう。主様とやらに言われて仕方なくやったことだ。あんまり不躾に触れるのはよくないはずだ。落ち着け、おちつけ。
「あ、これは・・・その・・・えっとああ、テレビです。」
膝でドタドタと駆ける様に彼女は来た。
(すごいですね!モシ!モシ!どうやって目から映像を映してるのですか?)
彼女は僕を遮る様にテレビとの間に割り込んで来てしまった。
『ー続いて昨夜未明に起こった火事についてお伝えします。』
ーちっ!ああ、リモコンが、リモコンが反応しない!ああ、アニマさんがさすっているそこは赤外線感受部だ。。。
「ちょ、ちょっとすいません、どいてもらって・・・」
『・・・放火の罪で容疑が掛けられているのは、長い黒髪に白いローブを着た女性とみられており、』
ーあれ?黒い髪?こんなに綺麗な青い髪を見間違えるだろうか。夜だからかな?
『原場の警察官と揉み合った際に刃物で抵抗し、殺害未遂でも逮捕状がでております。引き続き情報の提供を呼び掛けておりますが、見つけた方は、くれぐれも刺激しないようにしてください。』
なお、火災により荒井 照一さん(42才)、荒井 輝子さん(37才)夫妻の2名が火傷による重傷をおったものの命に別状はないとのことです。警察官4名は刃物による軽傷をおったものの命に別状は無いとのことです。重ねてお伝えしますが、犯人は以前として逃走中で・・・」
ーどういうことだ?警官が死んでいない?でも確かに昨日彼女が刺していたしなあ。
(あ・・・ここ、昨日の場所ですよね?なんて言ってるんですか?・・・モシ?)
そういえば、音としての日本語はわからないのだった。ひとまず、ゆっくり探り探り確認していくか。
(これもアニメと呼ぶのですか??)
ーふ、素人め。あ、いや、そうじゃなくて。
「こ、これは絵じゃなくて写真を連続で流しているのです。写真ってのは・・・あとで説明します。それより、いくつか質問してもいいですか?」
(モシ?ええ・・・どうぞ。)
「昨日、警官に撃たれてなかったですか?ローブにも左胸に穴が空いていたし・・・。」
(ケイカン・・・・?あ、あの青い服の人ですか、それは・・・私、ディアブルと同じように右胸に心臓があるのです。だからちょっと痛かったですけど、すぐに魔法で治癒させれば、なんともなくて安心しました。こっちの銃って、すごい威力ですね。私の世界では主様の魔法付与があるあのローブで銃なんてはね返せたのですが・・・。)
ー魔法で!治癒!っだと!?落ち着けタイラ・・・ここはテンションが上がるところじゃない、シリアスなシーンなんだ。落ち着くんだ。
「な、なるほど。。それと、警官をそのダガーで指していませんでしたか?」
(え、ええ。一瞬意識を飛ばして、確実に胸元を刺したのですが貫通する手応えはありませんでした。主様により、鋭利化と麻痺が付与されているのですが。やはりこちらでは魔法がうまく機能しないのでしょうか?)
ーあらやだ、暗殺者ジョブ?やっぱりこの子、怖いわ。
そ、それはさておき、つまり昨日の時間が止まった様な感覚は、周囲の人間の意識を飛ばす魔法だったわけか。それでもって、麻痺で一時的に身動きがとれなくなったと。やっと全てが繋がった。思わせぶりな返り血だ。
「じゃあ、警官も市民も誰も殺してない?」
ー市民の荒井さんは命に別状がないわけだしな。あれ?被害者にあったのは荒井さん?あらい、アライ・・・やばい悪寒がして来た。
「あの、そういえばどうして火事なんか?」
(モシ。彼らは主様のご両親と聞いてます。今回の転移が成功した暁には彼らに最優先に救済を施しなさいと仰せでしたので。)
ー戦慄した。教祖の野郎は実の親を殺すためだけにわざわざ部下を転移させたのか?何故、何故なんだ。何考えてやがるっ!!!
「狂ってる・・・。」
(モシ?どうしました?)
ー落ち着け、落ち着け・・・。アライテル様とやらがやばいやつなのはわかっていたことじゃないか。
・・・
「親を殺すのは異常ではないのですか?」
ーいや、どう考えても異常だ。
(私にはわかりかねます。でも、救済は喜ばしいことでは?)
数分の沈黙が部屋を包んだ。僕があまりにショックを受けすぎたせいだ。
「・・・本当に帰るのですか?いや・・・帰れるのですか?」
ーできるなら帰したくない。ここまでイカれたやつのところに戻ったって、彼女が不幸になる未来しか見えない。
(それならご心配に及びません。帰りの魔法陣と魔力結晶を持って来ています。余分な量も与えられているので・・・ローブの内側に・・・)
アニマは干してあるローブに近寄ってガサゴソと、内側を漁ったのち、今度は慌ててローブをひっくり返す。どこから出て来たのか、ルビー色の真っ赤な宝石が込められた鏡と、松ぼっくりやらどんぐりやら朴の実やらが落ちて来た。
(魔力結晶が・・・ありません・・・。)
ーく、べた展開か・・・・。ま、松ぼっくり等々は道で拾ったのだろうか。それは後で聞こう。どうやら魔力結晶はどこかで落としてしまったらしい。多分、昨日の火事現場だろう。だとしたらもう回収は難しいか。きっと押収されているに違いない、こういう時に下手に戻っても間違いなく捕まってしまう。
一通り慌てて、なんどもなんどもローブをバサバサとひっくり返した彼女は髪だけでなく顔まで真っ青になってそのまま気絶してしまった。
外道さが突き抜けてしまいましたね。




