ー次の予定ー
翌日の朝、バージルたちがリゼルの病室を訪れると、そこにはすでにレイラがいた。
何やら話していたようで、彼女の手にはメモ用紙が握られている。
病室の窓は開いており、風が抜けていく。
カーテンが風に乗り、舞っている。
「あ、みなさん。おはようございます。依頼は……」
「今日は休ませてもらった。リゼル、調子はどうだ?」
バージルはレイラに今日の依頼を休みにしたことを伝え、彼の調子を確認する。
リゼルはまだ病院衣で、包帯は巻かれたままだ。
「問題ない」
「……みたいです」
相変わらずぶっきらぼうだが、心強い言葉だ。
しかし、本心は分からないのか、レイラは少し困ったような顔のままだ。
それでも、彼が動くと言うなら、受け入れるしかない。
「……良かったな」
当然、レイズたちから見ても、問題なさそうには見えないが、本人が言うなら信じるしかない。
バージルはミーネが持ってきた椅子に座り、レイラを見る。
「えぇ、とりあえずは安心です」
「で、リゼル。これからなんだが」
「……あぁ。僕も考えていた」
全員が椅子に座るのを確認した後、リゼルは話し始める。
「依頼は全て断る。情報収集目的で、マナラドに向かう」
レイラやバージルは、少なからず都市が分かっている。
しかし、レイズとミーネは、故郷を出て長くない。町名を言われてもピンと来ないが、どうやら目的地は決まっているらしい。
「マナラドは、龍学問の町です」
龍学問の町と呼ばれるのは、王都の近くにある『マナラド』という町。
「昔から、龍魂の研究や教育をしている町です」
研究・教育と聞いて、研修所のような施設をイメージするレイズとミーネ。
「学校も多いので、若い人が多かったんですよ」
「かった?」
過去形なのは、多分……
「『あの日』以降、再開を見合わせている所も多いみたいです。一部は再開している様子らしいですけど」
町の説明も程々に、視線は提案したリゼルへと向けられる。
「……フリアとの龍力差は、圧倒的だった」
リゼルは手を握りしめる。
フリアとの戦闘を思い出し、悔しさが滲み出ている。
こんなにも悔しさが溢れているリゼルを見るのは、初めてだ。
勝てなかった勝負はあるが、リゼル個人が大敗北した訳ではなく、暴走龍力者が相手だったり、連戦だったり、足手まといがいたりと、(悔しさはあるだろうが)そこまで顕著ではなかった。
レイズたちも戦力は聞いたが、見ていない以上、想像を膨らませるしかできない。
「レイラには聞いたけど……具体的にはあんまり」
「…………」
あの戦闘力は、見た者でなければ分からない。
強さの表現を言語化するのは難しいが、ピンと来ていないメンバーに伝える必要はある。
自分は何度もヤツの龍力を受けたし、攻撃した時の手ごたえ的なことも分かる。
その上で分かりやすく言うと……
「……団長ですら、数秒もつかどうか……」
「!!」
数秒?十秒戦えないと言うのか。
「……大前提として、あの時のフリアは明らかに遊んでいました。その状態で、です」
「マジかよ……」
レイズは絶望が詰まったようにため息をつく。
その横で、バージルはフォリアが言っていたことを思い出していた。
(……フリア……ではないはずだ。けど、無関係なのか……?)
ペルソス街道での魔物の傷。龍力の大きさを想像するに、それくらい強くても違和感はない。
だが、あの傷跡は間違いなく無属性。フリアは月の龍力者だ。
「で、なんでマナラドに?」
「……強さは出鱈目ですが、あれが同じ龍力である以上、似たような力が出せるはずです。理論上」
聞いていた話を繰り返すように、レイラが彼の考えを教えてくれる。
「まぁ、そうだと良いけど……」
「マナラドは、昔から龍魂を研究している町です。私たちが気付いていない、龍力を引き出す方法があるのかもしれません」
「……行く価値はある」
マナラドに期待を寄せているリゼル。
レイラが否定しないのを見るに、彼女も納得しているのか。
「…………」
レイズたちは、何も言えない。
本当にそんな方法があるのか?正直、バージルたちにはよく分からない。
理由は簡単だ。
そんな方法があるなら、すでに騎士団サイドに共有されていてもおかしくないからだ。
国を守る騎士団。マナラドがそれを騎士団に教えていないのは、腑に落ちない。
そのことをリゼルに言うと、彼は一定の理解を示しつつも、譲らなかった。
「でないと、ヤツの力を説明できない。普通に鍛錬を積んだレベルを超えている」
「まぁ、お前がそう言うなら……」
実際に剣を交えたリゼルの意見だ。
その方法がマナラドになくとも、行ってみる価値はありそうだ。
そうすれば、結果に関わらずリゼルは満足するだろう。




