団長の提案
フリアにボコボコにされた数日後。リゼルは目を覚ましたが、中々動けずにいた。
レイラや、その他諸々と話はしたが、それだけだ。
リハビリメニューは一応こなすが、身は入らない。
セラピストもそれを理解しているのか、手を変え品を変え提案してくる。が、どれもその時間をこなすだけで、積み重なってはいなかった。
そんな中、クラッツが見舞いに来た。
「……平気か?」
「……一応な」
クラッツを見ることなく、リゼルは力なく答える。
そんな彼を見て、クラッツは頭を下げる。
「すまなかった。そして、ありがとう」
「…………」
視線だけを動かし、クラッツを見る。しかし、何も言わないリゼル。
「王都内でそんなことが起こっていても、私は『そこ』にいなかった」
それに、と続ける。
「意見はあったろうが……追わない判断をしてくれて助かった。無意味に死傷者が出るのを防ぐことができた」
「……目先の、な」
団長も、フリアを追う判断はしなかったことが確定。
だが、これは目先の死傷者が出なかっただけ。将来的には、とんでもない数の死傷者が出ることになるだろう。
彼らもグランズを探している。そうでなくとも、国を恨んでいることは確定している。
なぜ今その牙を剥かないのかは不明だが、時間の問題だろう。
「あぁ。だが、それで救われた命があるのは間違いない」
それで失われる命が増えるのも間違いないがな、とリゼルは思う。が、今は彼らが大人しくしていることを喜ぶべきか。
「……フリア、ヒューズの名前だが、私も聞き馴染みはなかった。他を当たってみたが、同じような反応だったよ。本名なのか?」
「……収支騎士団の情報量をバカにしているようだった。そこで偽名を使ってもメリットは薄い。その名前で、自分たちに辿り着いて見せろ。そう言われているように僕は感じた」
「逆に言えば、そこから正体まで辿り着ける、と」
「少なくとも、アイツはそう考えている」
団員ではない。城関係者でもない。
となると、依頼で関わったことがある人間か?だとするなら、名前や住所は控えているはず。
しかし、フリアとヒューズ。両名とも、対応した団員はいなかった。
そもそも、あれだけの強さがあるのなら、依頼者側に回ることはなさそうだが……となると、考えられるのは……
「……過去の事故・犯罪状況も含めて、引き続き調べさせるよ。状況次第で、見逃している可能性もあるかもしれない。出てくるかどうかは、分からなけど」
「あぁ」
事故や、被害者が許した場合など、末端で処理される事案は上まで共有されない。
どんな小さな情報も、見逃し厳禁となってきた。
話は変わるが、とリゼルは団長に提案する。
「(騎士団トップとして飛び回る必要があるのは承知しているが)……そろそろ王都に留まったらどうだ。明らかに流れが変わったと思うが」
「あぁ。だが、またすぐに飛ばせてもらう。これだけは、ずらせない」
「……すぐそこまで敵が迫っているが」
暴れていないだけで、王都内を歩けている状況。
これだけの事態になっても、騎士団トップが王都を空ける理由が重いつかな……
リゼルの目が1.5倍くらいに開かれる。
「……四聖龍か?」
「……察しが良くて助かるよ」
クラッツは、四聖龍関係で飛び回っているらしい。
「騎士団として、一度四聖龍を招集するつもりだ。それぞれの基地長とも話している最中でね。その調整がしたいんだ。だから、ここに留まるのは、それが終わってからになる」
「状況は?」
「西地区は、すでに終わっている。四聖龍の返事待ちで、必要に応じて説得する必要があるくらいだ。あと、南と東で調整する予定だ」
「……そうか」
四聖龍の招集。
受け入れてくれるかは置いておいて、実現すれば、かなりの戦力アップに繋がる。
しかし、数的に言えば、たったの3人。
敵は最低でもフリアとヒューズの二人。そして、行方不明のレイがいる。
お互いの動きが読めていない状況だが、四聖龍に頼る戦略には限界がくるだろう。
「東、で思い出した。マナラドに寄ってみるのはどうだ?」
「マナラド……学問と研究の町か」
「あぁ。どうしても実戦経験を重視する騎士団だからね。座学云々は基礎と少しの応用だけで終わりだろう?しっかりとした研究施設や学びを得る機会は多くない」
「否定はしない」
基礎と少しばかりの応用。
大事な修行であるが、良くも悪くも退屈な修行だ。それに、騎士団の仕事は研究ではなく、国民生活を守ること。
依頼があれば最前線で戦闘だ。依頼が落ち着いていても、巡回やら広報活動やらで時間は無くなる。
特に今は、国全体が不安定である。
「強制はしない。だが、新しい発見もあると思う」
「…………」
どうせ行き詰っている。何かの突破口になるかもしれないし、悪くない提案のように聞こえたリゼル。
あの時の絶望感は、レイラも同じはず。ならば、淡い期待を抱いてもいいのかもしれない。




