情報元は誰
レイズたちは、自分たちに与えられた部屋ー騎士団の男性寮ーに戻って来ていた。
女人禁制ではないため、寮で女性を見かけることはある。その度にバージルは不愉快な気分になっていた訳だが、まさか連れてくる側になるとは。しかし、ミーネと「特別な関係」な訳ではないため、全くワクワクしない。
それに比べてレイズは、その辺りがお子様である。よって、バージルよりは純粋な感想だ。
(変な感じだな)
当然だが、ミーネは普段女子寮にいて、基本的に部屋を行き来することはない。そのため、部屋に彼女がいるのは、変な感じだ。
ちなみに、女子寮に行くことは可能だが、行動範囲は規則で限られている。
「……で、バージルよ。本当にどうする?」
「……そうだな。あいつ、心が折れた感じだった」
「そうね。力になりたいけど、どうすればいいのか分からないし……」
病室でのレイラの様子を思い出す。
誰も突っ込まなかったが、明らかに泣いた跡があった。
目は赤かったし、腫れてもいた。
「圧倒的な龍力者か。クラッツよりも強いのかな」
「……あの様子だと、そうだろう。だから追い込まれてるんだ」
「クラッツ……騎士団長よね?知ってるの?」
そう言えば、ミーネは団長に会っていない。
あぁ、少しな。とミーネ捜索の前の依頼で一緒だったことを軽く話す。
それと同時に、あの時のクラッツとの共闘を思い出す。
レイズたちから見れば、彼も十分強い龍力者だと感じた。
「クラッツよりも強いのかよ……しかも、それが敵かよ」
「そうなるな。ただ、今までどこに潜んでいたのか……」
「……何で『今』なのかしら」
タイミングは確かに気になる。が、それは敵の事情が関係することとなる。考えても、答えは出ないだろう。
バージルは答えを濁し、問いを変える。
「さぁな……で、レイラのことと、リゼルのことまで知られてたってな。騎士団関係者か、城の関係者が関わってんのか……?」
騎士団関係者か、城の関係者。グランズやその娘のことも知っているとなると、両方の関係者だろうか。
そんな人間で敵に回りそうな人物。世間的には数名浮かぶのだろうが、狭い世界で生きてきたレイズは、一人しか思い浮かばない。
「……なぁ、レイ、か?」
「あ……」
バージルは固まる。
勝手に「レイは個人行動」と解釈していたが、仲間を集めていた可能性は十分にある。
レイは『あの日』の黒幕だとされる人物。
多くの国民は、レイの存在すら信じてはいないが、状況的には合う。
レイとレイラが面識があるかは不明だが、レイは騎士団の中心部にいた人物だ。レイラの癖を知る、と言う機会は幾らでもあったと予測する。そして、彼女のそばにはいつもリゼルがいる。その情報も。
「(フリアは)ヒューズからレイラのことを聞いたって言ってたらしいが……」
そうだ。レイラからの報告では、フリアと言う青年は『ヒューズ』から自分のことを聞いたとある。
だが、それはあくまでフリア視点の話だ。
「だったら、ヒューズがレイに聞いたんだ。そして、広げた……」
「……それって、ヤバくない?」
ミーネは不安気な顔で二人を見る。
そう。レイから情報が渡っている。それも、一人ではなく、複数に。
「まぁ、レイと決まったわけじゃないし……」
当然、今の話は憶測の域を出ていない。が、なぜこうも『しっくり』きてしまうのか。
「そうだけど……」
「でも、レイの可能性は高いのよね?何で誰も言わないわけ?」
疑問はそこだ。これだけ(それっぽい情報ではあるが)情報がある段階で、なぜ誰もレイの名前を出さないのだろうか。
黒幕として公表している『レイ』という名前。少なくとも、団内であれば、その情報を無下に扱う人間はいない。
「……証拠が欲しい、とか?」
「証拠?」
「レイラが言ってただろ?レイの問題はシビアだって。確証もなく、悪戯に刺激すんのはリスクが高いんじゃないか?……それか、シンプルに繋がりが分かってないとか?」
バージルは冷静に分析する。
言いながら、自分もレイが絡んでいそうな気はする。
一時発信者が本当にヒューズだとするなら、彼が騎士団関係者、城の関係者でないと情報を得ることが不可能なはず。
また、それだけ距離が近かったなら、レイラも認知しているだろうし、当然リゼルも把握しているはず。よって、もっと騒いでいただろう。が、淡々とレイラは報告していたことを考えると、関係性がないと考えていいと思う。
だから、間に誰か入っていると思う。それが、レイ……
「……それか、思ってるけど、口に出せないとか」
ミーネが人差し指を立てる。
「レイラがレイの強さを知ってるかは分かんないけど、敵がヤバすぎて、周りが戦意喪失するかもしれないとか思ってるかも……」
「それもある、か……?」
「敵の規模も、力量も不明だ。踏み入った情報はまだ開示しないのかもな……」
「な、なるほど……」
話が反れたが、自分たちに出来ることは、そう多くない。
リゼルが起きるまで、任務をこなしつつ龍力に慣れ、限界点を上げるようにすることが最低限のラインだろう。
そう話はまとまった。
ヒューズ。フリア。そして、レイ。
敵は、間違いなくこの国のどこかで動いている。騎士団は、それを把握できていない状況だ。それも、全くと言っていいほど。
そんな中、自分たちは、その勢力に対抗できるのだろうか。
漠然とした不安を抱えながら、レイズたちは翌日からの任務に挑むのだった。




