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龍魂  作者: 熟田津ケィ
-全ての始まり-
9/689

旅の理由

「ッ……」


レイズが目覚めると、もう夜になっていた。


「夜、か……ここは……」


起き上がり、周囲を観察する。

目が慣れるまで時間を要したが、自分の部屋だと分かった。そして、ここはベッドの上だ。

久しぶりのベッド。もう一度横になり、大きく息をつく。


「…………」


どうやって自室まで帰ってきたのか、全く覚えがない。


覚えているのは、長かった隔離が終わり、昼間、母と共に村に帰ってきたこと辺りまでだ。

そこからの記憶が飛んでいる。


「あ、そうだ」


家、ということは、母がいるはずだ。

部屋を出てみるか。


「いてて……」


額の少し上が痛む。レイズは恐る恐る痛みの場所へと手を伸ばす。

コブになっているようだ。ただ、血は止まっている。これくらいなら、触らなければ大丈夫そうだ。

そこまで来て初めて、誰かと戦ったことを思い出した。


「誰だっけ……確か、そいつに……」


リビングに出て行くと、見覚えのあるような、ないような男-歳は自分と同じくらい-が母の向かいに座っていた。

レイズが入ってきたのを確認すると、明るく声を掛けてくる。


「よぉ。昼間は悪かったな」


そして、頭を指さし、申し訳なさげに謝る。


「お前……!」


思い出した。こいつだ。

自分は、こいつと無理矢理戦った。


レイズは一瞬全身毛が逆立った気がしたが、すぐに冷静になる、ここは家で、母もいる。

騒ぎを起こしたくない。


「なんで家に」

「……座ってくれ」

「あぁ」


母の表情は暗い。何か悪い話でも聞かされたのだろうか。何も言おうとしないし、こちらを見ようともしない。

何か嫌な予感がする。そして、昼間の戦いの意味はあったのだろうか。それが話と関わってくるのか。


レイズは大人しく指示に従う。


「俺は、ただの旅人じゃない」


そこから、話は始まった。


グランズの崩壊以後、龍力者は爆発的に増えた。それも、国が管理できないほどに。人々はそんな彼らを『エラー龍力者』と呼んでいる。

そのエラー龍力者は、正規の龍力者よりも、当たれば強い力が出せる傾向にあるらしい。

『当たれば』と言うのは、エラー龍力者全員が全員その力を出せるわけではないからだ。

それに、傾向があるだけで、100%ではない。


バージル自身、統計を取ったこともないため、噂が独り歩きしているのも否定できないという。


そして、そのグランズの崩壊についてだ。


「グランズの崩壊には、黒幕がいるらしい」

「!」


母も、同じようなことを言っていた気がする。


バージルは、その黒幕を探し出し、討ちたいと考えているようだった。

しかし、一人ではどうにもならない。


「今は、仲間探しってとこかな」

「なんでそんな面倒な……」

「俺もそれ(噂)の検証したくてな。少しだけ世界を見て回ってたんだ」


だから、ただの旅人ではない、という話。

目的があり、それの達成のために必要な情報収集。そして、方針も。

全て決まった上で、世界を回っている。


「こんな隅っこの村まで……」

「俺だって龍力者の端くれだ。『気配』を感じたからな」

「!」


だからか?目が合っただけで自分がエラー龍力者の一人だと分かったのは。

気配を感じたから来たということは、彼が気配を感じたのは、直接会う前だ。

具体的な時期は明言しなかったが、離れていても、感じるほどの気配だったのか。


バージルは話を進めるため、話題を変えた。


「……俺は、親を失った」

「!!」


グリージでは死者は出なかった。しかし、他の町は違う。その話も聞いたことがある。

一時災害、二次災害かは分からないが、バージルも深い傷を負っているのだ。


「絶対に。許さない」

「……具体的にあるのか?その……黒幕が誰で、どこにいるかも分からないのに。それに、そもそも……黒幕がいるかどうかも、って……」


チラ、と母を見るレイズ。

レーヌは微かに頷いただけで、それが何を意味するかまでは分からなかった。


「……情報によると、黒幕は、レイというらしい。城にいた騎士団隊長の一人だとさ」

「そこまで分かってんのか?」

「『らしい』ってだけな。それも、騎士団からの情報だぜ。嘘かも知れねぇ」

「だったら……」


無駄になるかもじゃねぇか?との言葉を呑み込んだ。


「それを確かめるための旅だ。俺の目で、な」


黒幕の存在の有無、レイと言う名前の真意はどうでもいい。真実を知るための旅。


「黒幕の、レイ……」


自分の名の一部にあるが、別段珍しくもない。

フレイ、レイア、レイモンド、レイチェル等、山ほどいる。

ただ、気分が良くないのは確か。


「つっても、一人じゃどうにもとまらなねぇ。だから、騎士団に入る。王都でも情報収集に躍起になっている。騎士団に入って、そいつの情報を集めるんだ」


騎士団。

王を守り、地域を守る集団だ。


騎士団の基地が、至る所にあることはレイズも知っている。

グリージのような小さな村には、さすがにない。


「……俺は行かねぇぞ」

「あぁ。それは自由だ。俺の都合だしな」


意外にも、バージルはケロッとしている。もっと強引に誘われると思っていたのだが。


「……あっさり引き下がんだな」

「当然だろ。だが、再び龍が発現したお前を、他の人間はどう思うか……あぁ、想像したくねぇな」

「!……てめぇ……」


謀りやがったか。バージルの意思でも、レイズの意思でもなく、状況的に村を出ざるを得ない状況にされているのか。

だが、自分をこの年齢まで見守ってくれた人たちを信じたい。信じたいが……


「……皆は分かってくれる」

「どうかな?昼間のお前の力を見て、『前と同じように接しよう』って思う人間がどれだけいるんだろうな?」

「ッ……」


レイズは言葉に詰まる。外堀は埋められているように感じた。


バージルの龍力に、村人は完全に手も足も出なかった。

そのバージルを殴り飛ばした自分を彼らはどう思うのだろうか。


(サザギシ……皆……)


村人同士、仲はいいはず。しかし、状況が変わってしまった。


「……ここで引き籠ってても、未来は手加減してくれねぇぜ?」

「…………」


至極正論。

何も言えなくなり、俯いてしまう。


(なんでこんなことに……俺が何したってんだ……!?)


平和に野菜作りに勤しんでいただけ。

家族とのいざこざはあったが、それは十何年もいれば、当然だと思う。


思考を巡らせていると、バージルが口を開いた。


「……見ろよ」


見ると、彼は背後を見つめていた。

何だと思い振り返ると、母が大きな箱を持っていた。


「お父さんがね……レイズがここを出るようならって……」


豪華な箱には、剣が入っていた。

凝った装飾に、燃えるようなオレンジのライン。とても高価なもののように見える。


「俺は出ないって」

「昼間の戦い……皆はどう思うかな」

「ッ!!それは他の奴らも同じだろ!!」


龍力者はレイズだけではない。他にもいたはずだ。そいつらも状況は同じだろう。

しかし、彼の答えはNoだった。


「いや。目ぼしいのはお前だけだったよ。実際、感じた気配はお前のだったと思うぜ。」


残念そうに肩をすくめて言う。


「母さんは……」

「私は、反対する。けど、何かあったとき、あなたを止める人がいないのも事実」


何より、危険なことはさせたくない。と最後に言い、唇を結ぶ。

不意に、バージルが口を開く。


「俺は、真実が知りたい」

「聞いたって……」

「俺たちがこんな目に遭っているのは、なぜなのか。グランズの崩壊は何で起こったのか。黒幕の顔、歳、全てが知りたい。そのために、俺は戦う」

「……それまでに死ぬかも知れないのに」

「それでも、何も知らないのは我慢できない」

「…………」


レイズは黙る。確かに、この先何も知らずに生きていくことはできる。龍の暴走に怯えながら。

しかし、バージルについていけば、知ることができるかもしれない。龍力の訓練もできるかもしれない。


レイズの迷いを察したのか、レーヌは言う。


「……もう一度言うわ。行くなら、この剣を持っていきなさい。お父さんが昔使っていたものよ。それに……騎士団がに入りに王都に行くのなら……会えるかもね」

「!」


レイズの父は、王都に出稼ぎに行っている。

詳しい仕事内容は聞かないし、興味もない。それに、出稼ぎに出てから、父が家族のために何かしてくれたことはあまりなかったように思う。

生活面では不自由なかったように思うが、そもそもここではそこまで金銭面にシビアにならなくてよい。

それに、今自分が苦しんでいるのに、連絡一つ寄こしてこない。

そのせいで、レイズは父に苦手意識を持っているし、嫌いだ。会いたいとも思わない。


「俺は、別に……」

「そう……?」


レーヌはレイズの心を見抜いている。


レイズには知る権利があるし、実際知りたいと考え始めている。

不本意だが、龍力を得てしまった以上、習得する必要がある。でないと、この村にいても、白い目で見られ続けるだけだ。

危険なことは絶対にさせたくないが、最後に決めるのは、彼だ。もう子供ではない。

外の世界に触れるという意味でも、旅は必要なのかもしれない。


「騎士団に入らなくてもいいわ。一緒について行って、気が変われば帰ってくればいい」


でしょ?とバージルを見る。口調は穏やかだが、彼に対しての目は、かなり厳しいものだった。

親の強さを感じ、彼は肯定する。


「……そうです。仲間は欲しいですけど、無理を言ってることは承知ですし」


それに、と続ける。


「レイズの場合は、龍魂のコントロールが最優先ですし。実際問題、騎士団がどう判断するかは、分からないですからね。そうなったら、基礎を叩き込んでお別れです。それで、ケジメにします」

「まぁ、そうか……」


村のためにも、今自分はここにいない方が良いのかもしれない。

外を見に行くついでに、龍魂とやらを会得してみるか。


「……分かった。船に乗ってやるよ」


そう言い、レイズはグリージを発つことを決めるのだった。

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