折れる心
フリアという、強敵の襲来。
剣を交えたレイラの判断で、騎士団は彼を追っていない状態だ。
団長がどう判断するかは不明だが、おそらく同じ決定を下すだろう。
実際に剣を交えた者が、「力の差は歴然だ」言うのだ。それも、明らかに手を抜いていた状態で。
真の戦闘力は、計り知れない。
しかし、そんな危険人物を完全に放っておくのも、騎士団としてどうなのか。
レイズは王に質問を投げる。
「……これからどうするんだ?」
国民の問いに、レイラは答えることができない。
「まだ、何も」
正直、頭が働いていない。
レイズたちの会話や、時折投げられる問いに反応するだけで精いっぱいだ。
絶対的に信用していたリゼルの圧倒的敗北。
『あの日』の黒幕、四聖龍の件や、復興途中の国の状況。
フリアの言い草から、彼にも仲間がいることは確定している。敵の規模も分からない。
もう、頭の中はぐちゃぐちゃだろう。
そんなレイラの様子を見かねて、バージルが案を出す。
「……まぁ、何だ……リゼルの調子が戻るまでは、何もできないだろ?こっちの依頼はこっちでやるから、二人は休んだ方が良い。疲れてると、パフォーマンスも下がっちまうぞ」
精神状態は、龍魂に大きく影響する。
また、シンプルに疲労感が強いと、意志と肉体のシンクロが困難となる。
そんな状態で(比較的軽いとはいえ)騎士団任務をこなすのは危険だ。
レイラが現場主義なのは重々承知だが、彼女も今の精神状態が危険なのは分かっているはず。
だから、ここはチームの出番だ。
「……そうね、あたしたちはあたしたちでやるわ」
ミーネもそれに乗っかる。
自分のために、ここまで気を利かせてくれた人たちだ。
力になりたいし、支えにもなりたい。
「ありがとうございます……今日は戻ります」
レイラは力なく笑い、軽く頭を下げた。
ギ、と椅子を鳴らし、立ち上がる。乱れた髪を整え、ベッド脇を通る。
いつもサラサラな彼女の金髪が、少しゴワゴワしている風に見える。激しいストレス故に、整容が疎かになっているのだろう。
「……とにかく休めよ。頭も使うな……ってムチャか」
「いえ、分かってはいるのですが……善処します」
レイラは病室を後にする。
彼女が去った後、何とも言えない空気が流れる。
やつれたレイラは、王のそれではなかった。見ていて本当に痛々しい。どうにかならないものか。
「……やつれてたわね」
「そうだな。そうとうなヤツだったみたいだ」
「…………」
レイズたち含め、ほとんどの団員は、その龍力者を見ていない。
知らされる強さも、なんだか漠然としていて具体的なイメージが湧かない。が、レイラとリゼルの変化からして、敵は相当なヤバいやつらしい。
(……この国は、本当にヤバいんだな)
レイズは拳を握りしめる。
最近、厄介なことが多い。
国内の状況は把握されつつあるが、まだまだ氷山の一角のようなところもある。
そして、公にはできない組織のこと。
これについては、クラッツから何の連絡もない。まだ調査中なのだろうか。
他の四聖龍にも勝手に変化が起きていれば、大変な事態だ。が、騎士団は大きく動けないだろう。
最前線で仕事をして、初めて分かるこの現状。
徐々に国が傾いているように感じる。
かと言って、具体的な解決策など思いつかない。
「…………」
レイズは、眠っているリゼルに目を落とす。
人が眠っている顔は、本当に穏やかだ。リゼルも例外ではなかった。
(起きれば、アレだもんな。慣れたけど)
レイラ以外には冷たい態度をとることが多いが、何も彼に嫌われているのではない。
リゼルの的確な指示で、自分たちを導いてくれた。時には反感を買うような判断をすることもあったが、それは先を見据えてのこと。レイラ寄りの意見になることもあるが、時にはレイラを律することもある。
また、シンプルに龍力も高い。騎士団に入って短いが、リゼルの龍は本当に強い。
だから、レイラが信頼する。
(それなのに、な……)
そんな人物が、今深い傷を負い、眠っている。
詳細は一々聞いていないが、大がかりな治療だっただろう。
短い期間だが、レイズも治癒術の特性は理解したつもりだ。
治癒術は、使われ過ぎると身体本来の自己治癒能力が落ちていく傾向にある。
だから、戦闘中体力回復を急ぐ場合や、生命危機を脱する場合に使われる。要は、転んでできた傷を龍術で治すことはない。
そんな力が世に知れ渡っている環境で、処置後のこの状態。
この世に龍魂が存在していなかったら、と思うとゾッとする。
バージル、ミーネも暗い表情だ。
多少なりとも、似たようなことを考え、不安を抱えているのだろう。
が、リゼルについては、大丈夫だと聞けて良かった。
バイタルも安定しており、経過を見守ることになりそうだ。
「……レイラも言ったし、俺らも。場所を変えよう」
「うす」
「……そうね」
仲間たちは花を整え、カーテンを閉める。
そして、静かに病室から去っていくのだった。




