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龍魂  作者: 熟田津ケィ
ー堕ちる龍ー
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気配

あれから数日。

リゼルの『上への提案』が通り、レイズたちは特別部隊のメンバーのままで居られている。

だが、実際は『こう』だ。


「ミーネ=マクライナをこの隊に加えた。詳細は報告書を見てくれ」


の一言で、半ば強引に通したのだ。

何はともあれ、ミーネの望む形になり、一つ安心できた。


それに伴い、レイズ、バージルも正式に部隊に加わることになった。

仮の部隊だった予定が、まさかの固定化。レイズ、バージルの二人も、離れ離れになるよりは良いと内心思っていた。

レイズにしてみれば、誘ってきたバージルと離れるのは、ついて来た意味合いが薄れる。バージル的にも、王都勤務の方が欲しい情報を得られやすい(と考えている)ため、Win-Winである。


さて、新人三人にとって、この結論は喜ばしい。しかし、これらが決まったことで、レイラ、リゼル二人の業務は一変した。

以前は、騎士団の精鋭部隊で最前線で世界を回り、状況把握に努めていた。

しかし、今は簡単な依頼を受け、王都中心で活動している。


レイズ、ミーネの龍を安定させる目的であると分かっているが、どうも緊張感がない。

激しい戦闘の日々から離れてしまっているのだ。力と時間を持て余しているよな感覚になる。一言で言うと、身体が鈍っている気がするのだ。

旅をしている時より、環境は抜群に良い。身体も休められている。しかし、「これで良いのか」という漠然とした不安が強く心にへばりついている。


ただ、彼らの龍力への適応は順調だ。特に、ミーネの成長スピードには驚かされる。

非戦闘時のコントロールは、かなり様になっている。注意点は、ミーネの感情の起伏が激しくないため、龍の影響でぼんやりしているのか、これがノーマルなのかを見極めながら行っているところ。

また、実戦経験がないため、動きが加わると、技や術のコントロール力が一気に落ちる。


レイズの方も、力が底上げされてきたのが分かる。最初の頃は初期技を数回使っただけでヘロヘロだったが、今は違う。

少し複雑な技にも挑戦できている。ただ、龍術は苦手なようで、一切進歩が見られない。

龍術を放つためには、術を構成する龍力や集中力、力の門となる「龍の紋章」を描く能力が必要だ。

どれが欠けても、満足に術を放つことはできない。その分、威力は凄まじいが。


王都中心で、比較的簡単な任務。

レイラやリゼルクラスの団員にとっては、城で手合わせしている方がよっぽど経験値になる。

だが、部隊で動いている以上、仕方ない。

口には出さないが、レイラは少し焦っていた。


世界のこと。

四聖龍のこと。

エラー龍力者のこと。

行方不明の父。


行方不明と言えば、他にも数名いたが、状況はどうなのだろうか。

そこらあたりは、把握しきれていないのが現状だ。


もっと世界を見たい。

王として、人々が何を求めているのか。支援すべきは何なのか。

そのために、リゼルと一緒に精鋭部隊に所属させてもらったのだ。


レイズやミーネが邪魔なわけではない。

一緒に居て楽しいし、エラー龍力者の役に立てているのも事実だ。

が、言葉にしにくい焦りや不安が、レイラを押しつぶそうとしていた。


それだけでない。

実は、帰って来てからここ数日、嫌な気配を感じるのだ。

気のせいだろう、一時的なものだろうと、特に誰かに話したりしなかったが、どうも長い。


王都を出て、仕事をしているうちは感じない。

ただ、依頼に集中しているから意識していない可能性もあるが、それだったとしても、ふいの瞬間に出も外でその気配を感じたことはない。

よって、王都で嫌な気配がずっとしているのである。


国の中心。多くの人が生活している、この王都で。


(気味が悪いです……)


リゼルは気付いているだろうか。他の仲間はどうだろうか。


相談できずに、更に数日たったころだ。

休日、護衛もなしに買い出しに出ていたレイラは、帰りの途中、王都内の大きな公園で、少し休んでいた。

木々に囲まれた広いグラウンド、隅には遊具が設置されている。

晴れの日の昼間ということもあり、子供連れの家族グループや散歩中の高齢者などで賑わっている。


城や任務中では一人になれない。レイラは心身ともに疲れていた。


(いつまで続くの……?)


国や四聖龍のことは気になるが、それを忘れるぐらいの気配。

その嫌な気配は、全く無くならない。それどころか、日に日に強くなっているような気もする。

ただ、王都内で龍魂に絡んだ大きな事件は起きていない。起こるとすれば、これから――――――


(……戻ろう)


一度伸びをし、立ち上がる。城の方向へ歩き出そうとした時だ。


「……待て」

「!」


背後から声をかけられた。男の声だ。

レイラが振り返ろうとすると、声の主は低く言う。


「振り返ったり、声を出したりすれば、殺す」

「……!!」


嫌な気配が強い。ここ最近、常時『それ』を感じていたせいか、声の主が達人なのかは分からないが、接近に気付けなかった。


(不覚……!!)


背中の一点に圧を感じる。ナイフだろうか。

龍力者ならナイフ程度どうってことないが、今はほぼ生身。ただでは済まない。

レイラの頬を一筋の汗が流れる。

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