別れ
ミーネの騎士団入団が(ほぼ)決まり、一段落。しかし、息つく暇もなく、レイズたちは動いていた。
時間を置かず、ペルソス騎士団基地から直で王都に帰ることにしたためである。
団長からの指示とはいえ、残業で予定よりも帰宅が大幅に遅れている。ペルソス街道復旧も手伝う話も一瞬出たが、リゼルが却下した。
「これ以上は僕たちの役目ではない。帰るぞ」
ミーネ捜索で、十分ここの基地には貢献したと。魔物の凶暴化も恐らくは解決した。十分な仕事量だ。
ペルソス基地に呼んだ飛行艇。
レイズ、レイラ、リゼルの三人は、先に飛行艇に乗り込んでいく。
「やっと寒さから解放される~~!!」
「……しばらく雪も見なくなりますね」
「…………」
ミーネは立ち止まり、飛行艇を眺めていた。
ただ、別に見慣れない飛行艇に感激している訳ではない。
(……ここ、出るんだ)
これに乗れば、しばらくここには戻ってこないはず。
自分で決めた道だが、実際その時になると、後ろ髪を引かれる。
(でも、決めたから)
迷いを断ち切る様に、首を振る。
しかし、そう簡単なものでもない。タラップを上がりながら、何度も周囲を見回している。
この風景を目に焼き付けるように。
そして、最上段。彼女は振り返り、ペルソスの街並みをしっかりと目に焼き付けた。
……二度と戻ってこれない訳ではないが、彼女にとって、この門出はそれだけ大きなものであるのだ。
「いってきます」
小さく呟き、飛行艇に入ったミーネ。
残ったのは、バージルとフォリアの二人だけ。
「帰るんだね」
「……あぁ」
彼女は寂しそうに、本当に寂しそうにこちらを見ている。
色白なため、寒さで赤くなった鼻と頬がよく映える。
先に乗り込んだ四人は、飛行艇の窓に張り付き、彼らの様子を窺っている。
「……見えます?」
「あぁ。バッチリだ」
「ちょっと、押さないで……」
二人の立ち位置やタラップ、そして翼や窓の位置。
全てが噛み合わなかった。それ故に、一つの窓に三人が張り付いている形だ。
リゼルだけは窓から離れた位置にいたが、それでも彼らの様子が確認できる場所にいる。ただ、目は閉じている。
疲れているなら部屋に行けばいいものを。
無関心を装っているが、心の底では気になっているのだろうか。
レイズはそこをいじろうかとも考えたが、報復が怖くて止めた。
飛行艇内はそんな状態だとは夢にも思わないバージル。
フォリアとの時間を噛み締めている。
「……じゃ、あたしはここまでだね」
「あぁ……そうだな」
悲しそうな彼女の声に、バージルも切なくなる。
彼女がいることが、いつの間にか当たり前になっていた。しかし、自分たちの所属地は全く別だ。
偶然や失言が重なり、ここまで来ただけ。
「……あの時は、こんなことになるなんて思わなかったぜ」
バージルは、恥ずかしそうに額をかいた。
彼女の顔を直視できない。
「あの時?」
「……トイレの近くで」
「あぁ、それはアタシもだよ」
フォリアにしてみれば、単に見知った顔を見つけて、何となく声をかけただけだった。
それで、面白そうな話になっていると察した。彼の迷惑を考えなかったことは悪いと思ったが、どうしても好奇心が勝ってしまった。その結果、ここまで長く同行することになるとは。
「俺も馬鹿だよな。もっと上手く口が回れば、ここまで付き合わせることもなかった」
そもそもは、自分が秘密を隠しきれなかったことが問題であった。
結果論だが、フォリアがいたお陰で救われた場面もある。ただ、彼女は彼女で居場所も仕事もある。
ここまで長引いたのは、完全にこちらの事情。
「いいんだよ。ついてきたのはコッチだし。それに正直な人はスキだよ」
「!」
自分に直接「スキ」と言われた訳でもないのに、体温が上がるのを感じたバージル。
やべぇ。どれだけ意識してんだよ。
慌ててバージルは話を逸らす。
「フリーズルートまで送りたかったけど」
「良いよ、別に。無断欠勤の理由づけに、復旧作業を手伝って帰るよ」
「無断て……やっぱそうだよな……」
想像以上に付き合わせたのだ。しかも、通信珠は末端団員が持つには高価な代物。
連絡手段がないのは容易の想像できたのに。
彼女は気にしていなさそうだったが、気が利かなかった自分を静かに責める。
「……本当に、そろそろ行かないと」
「あぁ、そうだね」
ちら、と飛行艇を見る。窓から三人がこっちを見ていた。
急ぐよう言われて位はいないが、そろそろ出発したいところだろう。
ただ、実際は恋愛事情を野次馬されているだけだが……
「……じゃあ、行くよ」
「あぁ……そうだね」
バージルは飛行艇に向かって歩き始める。が、すぐに足を止め、振り返った。
「なぁ!」
「あのさ!」
声を上げたのは、二人同時だった。
「なんだよ」
「……何さ」
二人はほぼ同時に頬をかく。少し、恥ずかしい。
しかし、言わなければ。
「また会えるよな……?」
「また、会えるかな?」
二人同時に、似たような言葉を発した。
「「ふふ……」」
互いに顔を見合わせ、クスクスと笑う。
「もちろんだ」
「当然だね」
ひとしきり笑いあい、手を振って、二人は別れた。
別々の日常へ戻る二人。寂しくなるが、心は満たされていた。
二人が別れ、バージルは飛行艇に向かって歩き始める。
「………………」
先程までの様子を見ていたレイラが、思わずつぶやく。
「あの二人……両想いですか?」
『両想い』という言葉に反応し、リゼルは目を開ける。
だが、何も言わない。
「……そんな気がする」
恋愛経験のないレイズだが、それでも分かる。分かりやすすぎる。
それはミーネも同じだ。
「っぽいわね」
レイズは、前バージルが言っていたことを思い出す。
「そういや、同じ試験会場の同期だとか言ってたな」
「それで……辛い別れですね……」
数秒後、飛行艇に乗ってきたバージルに、それぞれ声をかけるレイズたち。
「別れは辛いな……なぁ、バージルよ」
「バージル……また会えますよ」
「良いわね。そういう人がいるのは」
バージルは訳も分からず「???」を浮かべる。
が、彼らは見ていた。まさか、最初から……?
次第に言っている意味が分かり、バージルは顔を赤らめる。体温が急上昇するのが分かる。しかし、止められない。
「そんなんじゃない!!」
「ムキになるなって。第一、それは自白したようなもんだぞ」
『こういう話題』をレイズにいじられるのは、なぜか非常に腹が立つ。
「うるせぇ!!さっさと出してくれ!!」
「……お前が一番うるさい」
リゼルはため息をつく。
飛行艇のプロペラが回り始め、加速のため移動を開始する。
「…………」
飛行艇の離陸を一人見送るフォリア。
その目には、少しだけ涙が浮かんでいた。それは風に舞い、散っていく。
「ありがとう。バージル。みんな……最ッ高な時間だったよ」
フォリアは飛行艇が見えなくなるまで、彼らを見送った。




