行くか、退くか
可能の一つを提示したリゼル。
それは、この仮の部隊を正式化し、そこにミーネ=マクライナを加えるというもの。
必然的に、レイズとバージルもこの部隊に編成されることになる。
ただし、自分たちは最前線に出る部隊。
レイラがいる部隊故に、過度に危険な任務は遂行しないが、危険が付きまとう部隊であることに変わりはない。
そこで、通常の教育とは別次元で、ミーネの龍力を慣らしていく。
「前線に……」
両親的には心配だろう。
しかし、娘の望みを叶えるとなると、そこは回避できない現実。
前線を回避するなら、彼女が望まない教育機関へ配置される。そうなれば、彼女は入団を断るだろう。
結果、魔物の凶暴化と群れの火種は、永遠に残り続ける。
「ミーネの決めた道だ。騎士団を信じよう」
「えぇ……そうね……」
国への信頼は地に落ちていたが、娘を救い出してくれた実績を肌で感じ、良い方向へ心は動いた。
両親の会話を聞き、ミーネの目に光が戻る。納得云々は置いておいて、許しが出たと同義であるためだ。
そこで、リゼルは念を押す。
「ただし、過度な期待はするな。掛け合うだけだ」
「……うん」
可能性があるだけでもミーネにとっては嬉しい。が話はこれで終わりではない。
「その結果、お前の望むものにならなくても、騎士団にはいてもらうことになる」
「え?」
望まない結果。
つまり、仮の部隊が役目を終え、予定通りに解体された場合だ。
本来そうなるべきだった部隊。可能性はゼロではない。寧ろ、高いと思っているが。
「当然だ。上に掛け合うのですら、特別扱いをしている。望みどおりにならないからと言って、お前を帰すわけにはいかない。キッチリ龍魂を扱えるようになってもらう。退くなら、『今』だ」
「そんな……」
レイズとバージルの心は右往左往だ。
上げたと思えば下げ、下げたと思えば可能性の糸を垂らす。
譲れない部分を示しつつ、彼女の気持ちを尊重する。そのバランスを取ろうとすると、嫌な現実も可能性の話として伝えておく必要がある。
責任のない優しさは、時に相手を傷付ける。
「……手段は違えど、慣れておくべきだ。その方が『スイ』との関係も続く」
「…………」
ミーネは黙る。
厳しいようだが、リゼルがここで言える最大の譲歩だ。
「今ですら少し使えているんだ。そう時間はかからないと思うが……お前次第だ」
エラー龍力者で随意的に龍力が発動できるものは少ない。が、彼女はそれなりに使えている。
暴走のベクトルも、破壊をし尽くすのではなく、龍力による相手への影響だ。
今は魔物が凶暴化するレベルだが、いつ人にも影響するか分からない。
本心は、強制的にでも保護したいところなのだ。
(以前の騎士団なら、そうしていた……が、今は……)
『あの日』より前の騎士団なら、容赦なく保護しただろう。
しかし、今の騎士団の情勢は厳しい。
前と同じように力と権力を駆使するのでは、ますます国に悪影響を及ぼす。
場に静寂が訪れる。
ミーネは黙ったまま、何も言わない。
「……事情が合って、王都への帰還を遅らせている。流石に拠点を離れ過ぎているからな。急かすようだが、時間はあまりない」
「……行くわ」
「時間がない」が決め手となったか、即答し、ミーネは顔を上げる。
「行く。人は苦手だけど、龍に怯えながら暮らすのも嫌。それに、スイも大事だし、調教師は諦めたくない」
「「ミーネ……」」
両親は安堵したような、心配するような声を上げる。
「……決まりだな」
リゼルは頷く。レイズたちも、ひとまずミーネが同行することに安心を覚えた。
望みが叶うかは分からないが、迷える龍力者を保護することができたのだ。
「で、良いですね?」
レイラは両親の顔を見る。彼らは深々と頭を下げた。
「寂しいです……が、この子のためです」
「娘を、お願いします」
この思いを無駄にするわけにはいかない。
「お任せください。安心して生活が送れるよう、支援します」
「……ヨロシク」
恥ずかしそうに、ぼそぼそと頭を下げるミーネ。
「えぇ、こちらこそ」
レイラは微笑み、手を差し伸べる。彼女は、それを遠慮がちに握った。
ミーネの門出。
世間的に言えば、彼女は『救われた側』のエラー龍力者なのだろう。
『救われた側』がいるということは『見捨てられた側』のエラー龍力者もいる。
数多い問題の、一欠片が繋がった瞬間である。




