面談
翌日、ミーネは両親と共に騎士団基地に来ていた。
今後のことで話し合いたいことがあるとのことである。
話し合いの参加メンバーは、レイラを含む部隊全員とフォリア、そして書記として女性の事務員がいる。
レイラも引き続き席を外そうかと思っていたが、ここは騎士団基地。レイラは王だが、団員としても動いている。驚きはされたが、別段特別なことではない。
「レイラ様!?」
「ほ、本物……!?」
「『あの日』以降、全国を飛び回っておりますので……元より騎士団員でいましたので」
「そ、そうでしたか……」
と、すぐに納得する。
裏で騎士団の秘密戦力『四聖龍』を調査していたなど、夢にも思うまい。
「基地長は外しているようですが、構いませんね?」
「はい。私が報告いたします」
隊長のテスラは、ペルソス街道復旧で席を外していた。
上長がいない形であるが、書記の事務員が、テスラが帰ってきたときに報告する形をとる。
聞けば、最低限の復旧は終わっており、物流は再開したと。
しかし、完全に復旧となれば、話は別。もう少し時間が必要であること、また、魔物の群れの直後であり、そちらの方面でも時間を要しているとのこと。
実際、ミーネの調教は、本人でも分かっていない。
数、作用副作用。群れ化する条件など、無意識のうちに行われていた調教。そして、静かなる龍の暴走。
地形の安定化と、魔物の調査。
これは人と時間が大量に必要である。
が、これはもうペルソスの案件だ。自分たちは、目の前の面談に集中しよう。
さて、準備が整うと、ミーネの母親が話を切り出した。
「……昨晩、娘と話しました」
「可能性の話ではあるものの、魔物の凶暴化……それの元凶とか……」
申し訳なさそうなミーネの父親。
「あくまで可能性です。しかし、そう考えると辻褄が合います。それに……『あの日』がなければ、こんなことにもならなかったはずですし……」
「はい……それも聞きました……」
彼女の両親は複雑そうな顔で目を反らす。
群れ・凶暴化の件は、騎士団から聞いていた。鎮静化したことも、知らされている。
その元凶が、無意識(と、可能性の話)とはいえ、自分の娘とは。
また、『あの日』間違いなく龍力を解放していたはずなのに、落ち着いてみれば、龍力の使い方も分からないと。
そんな龍力者も、一定数存在していることも、知っている。
しかし、娘は「使える側」で、全て無意識のうちに行動していた、と。
これは、非常に不安定な状態である。国を、グランズを恨む云々よりも、目の前に明らかな課題がぶら下がっている。
「ワタクシどもとしては……コントロールできるよう教育していただけると助かるのです……また凶暴化が起きてしまえば……ワタクシは……もう……」
確証がない、とぼかしていたが、話を聞く限り、確定である。
そんな状態の娘を、何もせずにおいておくわけにはいかない。
「分かります。こちらも、それ相応の教育陣で対応します」
「えぇ、えぇ、ありがたい限りですが……」
「……?」
どうも歯切れが悪い。
エラー龍力者の教育。
そうなれば、彼・彼女らの籍は騎士団にある。しかし、あくまで教育だ。この段階で実際に仕事は行わない。そのため、給与は発生しない。
そこが嫌なのだろうか。
「教育中は……給与をお支払いすることは出来かねますが、丁寧に教育するよう指示しています。衣食住も手配します。悪いようにはしませんが……」
「あ!?いや、給与面の話ではなく……」
父親は凄くもじもじしている。言いにくいことがあるらしい。
そこで初めて、ミーネが口を開いた。
「ねぇ、女王様」
「……はい」
「あたし、あなたたちと一緒に行きたい」
「!!」
前にも似たようなことがあった。
「あたしは……ちょっと人が苦手で……教育機関?ってことは、知らない人がいっぱい……」
「そうですか……」
人が苦手。人見知り、という認識でいいのだろうか?これも、程度や傾向は人それぞれだ。
動物と触れ合う期間が長かった影響だろうか。
何にしても、ミーネのフィルターに、自分たちは引っかからなかったらしい。
だが、問題は他にもある。
「私は……常に最前線に出るつもりです。少なくとも、決着をつけるまでは」
「……はい」
「彼らは新人ですが、もう一人前団員と同じく、最前線に出ております」
そう言って、レイラはレイズとバージル、フォリアを手で示す。
「一人前だってよ」
「黙ってろ。チョーシ乗んな」
吐き捨てるバージルだが、内心は嬉しいはず。当然。フォリアは見抜いている。
「気分イイクセに……」
彼らのやり取りは見ていたし聞いていたが、特に介入せずに進める。
「彼も『あの日』の龍力者です」
「!」
「隣のバージルが事前教育(?)していただいていたお陰で、彼も最前線にいます。かなり精度も上がってきており、後は慣れながら、というとこまで成長しております」
「あなたも、誘われて……?」
「いや、騎士団には誘われてないぜ。コイツ(バージル)に誘われて、まぁ、悪くない道だと思ったからな」
「はい。騎士団が彼を見つけることはできませんでした。誘われた経緯があるとはいえ、自発的に正規ルートでの入団です」
「そう、なんだ……」
「遠回りしてしまいましたが、新人、『あの日』の龍力者、ベテランは当然ですが……常に最前線に立つことになります。当然、命の危険も。もちろん、無茶な任務は組ませませんが、限界はあります」
「…………」
「その覚悟は、おありですか?」
空気がピリつく。
これは紛れもない事実。
(そう、だよな……これは『当たり前』じゃねぇんだ)
今までは生きて帰ってこれているが、今日を終える時、隣に座っている仲間が変わらず生きているとは限らない世界だ。
実際、何度も死にかけている。よく逃げ出さずにいるものだ、と自分でも感心しているところだ。
「……自分の我儘を通したいなら、リスクも当然、です……!」
「承知しました。あなたの覚悟、受け取ります。さて……」
ファーストステップはクリア。さて、次の問題だ。それも、彼女の要望に近い。
レイラは困ったようにリゼルを見る。
(延長はあったが)この部隊は一時的なものに変わりはない。一緒に来ても、メンバーはすぐ散り散りになる。
そうなれば、彼女はどうするのだろうか。
「……ここからは僕が」
リゼルが椅子に座り直す。
「まず初めに、このメンバーは固定じゃない」
「え……?」
「複雑な事情があってな……仮のメンバーで動いている。このまま王都に帰れば、解散の予定だ」
「そう……なんだ……」
誰が見ても分かる。ミーネの心がしぼんでいる。
「……特にアタシはね」
フォリアはペロッと舌を出して見せる。
それをどう受け止めていいのか分からず、ただそれを見て、俯く。
「…………」
抱いていた期待が壊され、今にも「帰る」と言い出しそうだ。
しかし、リゼルは続ける。
「だがミーネ。覚悟を見せたことも評価して、僕が上に頼んでも良い」
「は!?」
それを聞いたレイズは納得しない。マリナは突っぱねたのに、ミーネは許すのか。
抗議しようとするが、リゼルに睨まれてしまう。
「黙ってろ。今回のケースは本当に特殊でシビアなんだ」
有無を言わさぬその口調に、レイズは黙るしかない。
確かに、マリナの時とは事情が違うのも理解はしている。
「でも……」
「レイズ」
バージルに肩を掴まれ、振り返る。
目が合うと、彼は首を横に振った。
マリナのケースと、ミーネのケースでは事情が違いすぎる。
同列に考え、判断に文句を言うのはエラー龍力者側に寄り過ぎている。
「分かったよ……」
頭では、分かっている。
だが、(譲歩はあったとしても)マリナを切る形となったのが、悔しくて仕方ない。
(ダメだダメだ!レイラだって辛いはずなんだ)
辛いのは自分だけではない。あの場にいたレイラだって相当悔しい思いをしたはずだ。
レイズは頭からマリナのことを振り払い、面談に意識を戻すのだった。




