表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
龍魂  作者: 熟田津ケィ
ーマリナ=ライフォードー
80/689

ダイヤモンド・ロック

咆哮が聞こえてきた直後。

龍の暴走によって苦しんでいたミーネは、氷の剣の具現化を解除した。

氷の欠片が宙を舞い、風に乗って消えていく。


「何だ……?」


咆哮は気になるが、なぜ突然氷の剣を解除したのか。

戦闘状態の解除と取っても不思議ではない。ただ、龍力自体は強く感じられる。流石にそこのスイッチオフはできない(するつもりがない)か。が、無意識に、レイズたちは剣先を少し下げていた。

構えまでは解除せず、いつでも動けるような状態をキープ。


その間、ミーネは自分たちを気にする様子はない。首を振り、周囲を確認している。咆哮の主を探している様子。

再度、咆哮が聞こえてくる。それに応じるように、ミーネが指笛を吹いた。


「~~~~~~~~~~~~」


吠える声は段々と近づき、雪の積もった木々の間から、それは飛び出してきた。


「え……?」

「あれは……」


小柄な体に茶色い毛。短い尻尾を懸命に振っている。

子供のイヌだ。


龍力者はそれを見るなり走り出し、強く強く抱きしめた。


「良かった……!!本当に良かった!!」


ミーネは涙を浮かべ、そのイヌを優しく撫でる。

よく見ると、そのイヌの脚に包帯が巻いてあるのが分かる。


「おい、あいつ……」

「あぁ。(非龍魂状態に)戻ってね?」


ミーネの龍力がゼロになっているのが分かった。つい先程まで明らかに暴走状態であったが、今は龍力の気配が感じられない。

子イヌによって、暴走状態から脱したのか。


「どういうことだ……?」

「さぁ……」


レイズたちは困惑している。

状況が上手く呑み込めないが、これ以上戦う必要がなさそうなのは理解できた。


異質な雰囲気を醸し出していた龍力者も、今はイヌを可愛がる一人の女性だ。


「あの……ミーネ……さん?」


レイラが恐る恐る声をかける。

ミーネはレイラたちを見た瞬間、頭を下げた。


「ごめんなさい!ご迷惑をお掛けしました!!」


急に謝られても、話が読めない。それに、こちらとしては戻ってこられたようで何よりなのだ。

レイラたちは、ミーネが落ち着いてから話を聞くことにした。


「あたしは、ミーネ=マクライナ。ごめんなさい。迷惑かけて」

「……いいんです。戻ってこられて、良かったです」

「この子は、スイ。少し前に、怪我をしてたのを治してあげたの」


スイと呼ばれたイヌは、ミーネの膝の上でゴロゴロしている。包帯の更新中も、全く抵抗を見せなかった。


(今のは……)


処置の様子を何となく眺めていたレイラ。光龍故、治癒術に長けている。スイの小さくなった傷跡に、少しだけ龍の力を感じた。

スイに触れていた時点で、暴走状態に入っていたのか。あるいは、水龍も治癒術が得意なため、無意識に龍を使っていたのか。


「それから、調教師の真似事みたいなことをしてみたの。お父さんは調教師だったし……おかげで、スイはあたしの友達になった」

「そうだったんですか……」

「……初めは出来心だった」


スイの話が終わった後、ミーネの声のトーンが変わる。


「調子に乗ったあたしは、小型のアイスウルフを見つけて、同じことをしたの。そして、次は別の小型の魔物……この辺りで記憶がないの」

「それから……どうなったんです?」


気絶したわけではないが、意識がない感覚に陥ったらしい。この状態で、龍力が暴走していたと考えていい。


次の記憶は、自分の周囲の膨大な足跡の数。

怖くなって、家に帰ったこともあったと。しかし、気付けばまた雪山に入っていたと。


「多分、ずっとそれの繰り返し」

「え……?もしかして」

「種類に囚われず、繰り返してたみたい。相手が中型でも、イヌに近くない魔物でも。目が覚めたら、アイスウルフの尻尾に巻かれてたことも」


謎が解けた。

いくら雪国育ちとはいえ、人間が何日もキャンプできるような環境ではない。

調教の関係で、アイスウルフを従えていたのか。

で、あのモフモフの尻尾にくるまって、温かく過ごしていたと。


アイスウルフは間違いなく凶暴な魔物だが、あの尻尾は触り心地が良さそう。

レイラは密かに思ってしまう。


(それは羨ましい……)


と。


さて、魔物の凶暴化。レイズたちはその理由が今分かった。が解せない点がある。

調教師は、元は馬を管理することを業とする者のことだ。今では意味が広がり、動物やコントロールしやすい一部の魔物を管理、教育する人間のことを指す。


範囲は違えど、調教師の仕事は管理・教育である。凶暴化とは逆の位置にいるはずだ。

あるとすれば……


「魔物が龍力に干渉した……?」

「可能性はありますね……」


フォリアは一つの考えに至る。レイラもそれに同意する。

意識のない間も調教師のことをしていたのなら、ここにいるスイとの違いは、それだ。

現に、フォリアの龍力爆発に応じて(?)アイスウルフの雰囲気が豹変したのを見ている。


「ちなみに、ミーネさんが初めてここで調教したのは……」

「『あの日』の少し後だった気がするわ。それで、その後も何回か無意識に山に出入りした気がするわ」

「では、その間隔「レイラ。もういいだろう」


リゼルは彼女に囁く。

時期は気になるところだが、『あの日』の後で、それが数回繰り返されたと。

ここまでの情報と、先ほど見たアイスウルフの変化。騎士団に報告するには、充分だ。


暴走中、龍力を使い果たし、目が覚めた。そして、家に帰れたは良いが、肝心のコントロールができていない。よって、時間が経ち、龍力が溜まった段階で、また龍に支配された。そして、雪山へ。

一回目の魔物の凶暴化。そして、先日の凶暴化。こんなところだろう。


「そうですね……確かに……」


二人が話している別の場所で、バージルは、グリージに寄るまでのレイズの状況を確認していた。


「力を使い果たせば戻るんじゃないのか?」

「……あぁ。俺はそうだった。時間が経っても平気ってことで解放されたんだけどな……」


確かに、力を使い果たせば自分の意識が戻る。それは、エラー龍力者共通だ。

そこから分かれるのは、そのまま龍力が使えるようになる者、龍魂を得る前と同じく、一切龍力が使える兆しが見えない者の二者が大部分だ。


だが、ミーネは違う。魔物の凶暴化が二回起こったということは、『二回目』の暴走が起こっていたということだ。

なら、エラー龍力者全員に再暴走のリスクがあると考えるべきなのか。ミーネのケースが特殊なだけなのか。


「……考えても答えは出ないな」

「あぁ。予想が合ってんのかどうかも分かんねぇ」


ここであれこれ考えるのは止めだ。

レイラは仲間たちにアイコンタクトする。


「ミーネさん、スイも無事でしたし、帰りましょう。話はそれからです」


ミーネを休ませる。今はそれが最優先だ。

そう思った矢先。


重たい足音が聞こえてきた。

しかも、早い。


「!!」


現れたのは、スノウライガ。

雪のように白い体に、長い鬣。アイスウルフよりもデカい魔物だ。

そして、先ほどの魔物同様、筋肉が膨れ上がり、目が充血している。


スノウライガは、レイズたち一人一人に視線を走らせ、明らかに小さく弱い獲物を見つけた。


「やべぇぞ!スイが!!」


自分たちを狙わないところを見るに、戦いよりも、空腹なのが問題か。


十中八九、ミーネが調教した魔物だ。

それなのに、同じ調教された者でもターゲットにされてしまうのか。

その辺の塩梅は、レイズたちには分からない。


「守れ!!」

「あぁ!!」


そうは言ったが、この龍で行けるか?と思っていた矢先、スノウライガが跳躍した。

と、同時にミーネも飛び出した。


「ミーネさんッ!!」


その体には、氷龍のオーラが充実していた。

……いつの間に。


そして、ミーネは走りながら、腕を大きく振った。

同時にスノウライガに描かれる、氷龍の紋章。


「ダイヤモンド・ロック……!!」


突如として、氷の塊がスノウライガを包む。

その姿が、文字通り巨大なダイヤモンドのようだった。

氷属性相手に、氷属性の龍術。効果は薄いはずだが、一瞬でその塊に閉じ込められてしまう。


「「!!」」


強烈な龍術に、衝撃が走るレイズたち。

そんな彼らの様子など知る訳もないミーネ。静かに謝罪し、目を閉じる。


「……ごめんね。少し、頭を冷やして」


そしてそのまま、雪の大地に倒れ込んだ。


「ミーネさん!!」


彼女に駆け寄るレイラたち。

力が完全に抜けてしまっているが、生命兆候は途絶えていない。


「……大丈夫。気を失っているだけみたいです」


かなり強力な龍術だ。多分、エネルギー切れだろう。


「これで、一段落、だよな?」

「基地に帰るまでが任務だぞ」

「だな。わぁってるよ」


捜索対象者を保護したレイラたち。もうここに用はない。

ペルソスに戻るため、体勢を整えるのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ