意識
レイズたちは、これまでにない苦しい戦いを強いられていた。
暴走している可能性のある龍力者に加え、中型のアイスウルフとのと戦闘。しかも、凶暴化状態。
ミーネがそう指示しているのかは分からないが、アイスウルフは彼女を守るように前衛で戦っている。
そして、彼女は後方で龍術をバカスカ撃ってきている。
「コールド・ウェイブ」
「「ぐッ!!」」
冷気の波。
強烈な範囲攻撃に、レイズたちは防御に精一杯。
レイラ、リゼルは果敢に攻めているが、アイスウルフが邪魔で仕方ない。
また、邪魔なだけでなく、戦闘能力も向上している。
「ちィ……!!」
「(筋肉が)硬い……!」
二人の龍をもってしても、攻撃が通らない。
(あの二人でも……!アタシの術で……!!)
フォリアも充分な龍と詠唱時間があれば、強力な龍術を放てる。
しかし、そんな時間をアイスウルフが待ってくれるはずもなく。
「フォリア!!行ったぞ!!」
「!」
アイスウルフが雪の大地を蹴った。
巨体が宙に浮かび、体当たりをかましてくる。
「ッッく!!」
詠唱中止。即離脱だ。
アイスウルフが大きく動いたスキに、リゼルが走る。
彼のスピードなら、ワンチャン。
そう思ったのも束の間、ミーネの詠唱は終わっていることが分かるレイラ。
「リゼル!(術が)来ます!!」
「……!」
氷龍の紋章から現れた、巨大な氷の剣。それが回転しながら飛んできた。
彼は咄嗟に側方ダイブし、回転する剣を避けた。
自陣の陣形を乱しまくるアイスウルフ、嫌なタイミングで龍術を飛ばしてくるミーネ。
どちらを相手すれば良いのか分からない。だが、優先順位は多分、アイスウルフ。
ミーネを倒せたとしても、アイスウルフは動き続ける。
「……レイラ。魔物を全力で叩く」
「はい。後のことは、その時ですね」
通常の攻撃が通用しないのは理解した。だから、より一層龍力を込める必要がある。
しかし、そうなれば龍力維持が困難となる。要は、ペース配分が狂う。
それを気にして、二人はそれ相応の龍を維持してきたわけだが、もう限界。
レイズはアレだが、バージルやフォリアは動けている。
自分たちは、走り回る厄介者を叩いた方が良い。
リゼルは龍力を上げた。レイラもそれに倣う。
「闇龍紫刃」
「光龍白剣」
二人の剣に、元の龍のオーラに加え、が紫と白の輝きを放つ。
「ッ……!」
レイズは目の端で彼らを捉えた。そのオーラに驚きつつも、足は止めない。
非常に強い龍力だ。あんな状態では、長く戦うことはできない。
……賭けてきたな。
闇と光のオーラが戦場を駆ける。
龍が空を舞うように、二つのオーラは力強く駆けた。
そして。
「「!!」」
筋肉を裂く音を響かせながら、アイスウルフの脇を駆け抜けた。
鮮血が舞う音が響き、雪を深紅に染めていく。
「おい!!氷が!!」
「「!!」」
ミーネの龍術が飛んでくるが、基礎龍力を上げた二人へのダメージは少ない。
ただし、少ないだけで、しっかりと痛いし、傷ついている。龍力を上げたからと言って、無敵状態となったわけではない。
二人の動きとミーネの龍術に気を取られていたレイズとバージルだが、フォリアだけは動いていた。
(今ッ!!)
狙うは、傷口。
筋肉に刃が通らなくとも、傷口なら。
「水龍深蒼斬!!」
剣の軌跡が、深い蒼へ変化する。
龍力の充実を感じさせ、そのまま傷目掛けて切り上げを放つ。
「……!」
手に伝わる、肉を裂く独特の感覚。だが、アイスウルフは動じている様子がない。
攻撃力不足!?瞬時にそう判断したフォリアは、バージルとレイズに檄を飛ばす。
「今だよ!!ぼさっとしないで!!」
「「!」」
ミーネは龍術を放った直後。今は自由に動ける時間のはずだ。
彼らは彼女を視界から外し、全力で走る。
赤と緑のオーラが戦場を駆ける。
そして。
「炎龍裂斬!」
「旋風龍派!!」
リゼルやレイラよりは威力が劣るものの、そこそこな龍力で攻撃が炸裂した。
小範囲ではあるが、筋が引き裂かれ焼けていく。
火の粉が舞う様子を見て、レイズは呟く。
「効いてないのか……?」
「え?」
一連の攻撃、自己評価だが、かなり良かった。
それなのに、アイスウルフは悲鳴一つ上げなかったのだ。
「……確かに。怯んだ様子もねぇな。マジか」
と、アイスウルフの真下に光龍の紋章が。
「シャイニング・ランス!!」
レイラは龍力を維持したまま、高威力の龍術を放っていた。
その間、リゼルはミーネの龍術に龍術をぶつけていた。それでも押し負けているのか、受け漏らした術のダメージを受けている様子。
光の力が弱まっていく。
高威力の龍術を受けてもなお、アイスウルフは堂々とそこに立っていた。
「まだ倒れねぇのか……!」
「くそが!!炎……「待って」
フォリアに制され、レイズは動きが止まる。
「…………」
アイスウルフは、ゆっくりと。本当にゆっくりと、雪の大地に倒れていった。
倒した?凶暴化したアイスウルフを?思わずそこに突っ立ってしまうレイズ。
「レイズ!次だ!!まだ終わってない!!」
「お、おう!!」
バージルの声にハッとして、走る。
戦いはまだ終わっていない。
が、厄介な前衛が消えたことで、戦いは楽になるのでは?とバージル考えていたが、現実はそうではなかった。
今までが龍術メインの立ち回りだっただけで、暴走状態の龍力者であることに変わりはない。
それに、レイラとリゼルは龍力を大きく減らしており、長くは戦えない。
ただ、体術や剣術に覚えがないのか、接近戦の動きは雑であった。
「これなら!行けるぞ!」
対人戦に慣れているバージルは積極的に剣劇を繰り広げている。
しかし、レイズにはまだ躊躇があった。マリナの時と同様、戦いに来たのではなく、救いに来たのだ。
彼女にダメージを与えることが救いになるとは思えなかった。
だが、そんな甘い考えで戦場を生き残れる訳もない。
「穴」だと判断されたのか、狙われるレイズ。彼よりもマシだが、フォリアも対人戦は不慣れだ。
基礎龍力量に救われ、ターゲットにはなっていない様子だが。
「ッ!!」
ミーネの得物は氷の剣だが、こちらの燃えるオーラに触れても、全く解ける兆しがない。
寧ろ、こちらのオーラが減っている気さえした。
「変わるよ!!」
フォリアはミーネに体当たりし、彼女の気を引く。
「アタシが相手だ!!」
「……!!」
フォリアに変わっても、押され気味なのは同じ。
短期戦で負けることはないが、勝つことも100%ない。
ここまでくると、体力勝負な所が強い。しかし残念。相手は暴走状態の龍力者。
チンケな剣劇の押し合いで、龍力切れを狙うのは悪手。
さっさと体力を削ってしまった方が楽で早い。
『あの日の被害者』でなく、ただの悪人なら、こんなに心迷わせることもなかったのに。
バージルは対人戦に慣れているが、相手が暴走龍力者では力の差があり過ぎる。
レイズやフォリアとあまり変わらない押し合いが続いている。
ミーネもそれを理解したのか、バージルを弾き飛ばした。
「く……!!」
「バージル!」
「平気だ。ちょっと押し負けた」
彼女は指をくわえ、指笛を吹いた。
「~~~~~~~~~~~~」
「「!!」」
高音が雪山中に響き渡ったように感じる。
ド素人でも分かる。雪山中に散らばる、凶暴化を終えた魔物を呼んだのではなかろうかと。
アイスウルフ一体でこのザマだ。
何体呼び出されるかは不明だが、これ以上は危険だ。
リゼルは剣を納め、レイラの腕を引く。
「……これ以上は危険だ。撤退するぞ」
正直分かっていたが、レイラは一歩も動かない。
小さくため息をつき、口を開くリゼル。
「……続ける気か?」
「……(暴走状態にありながらも)冷静さはあるようですね」
戦闘前の、あの(リラックスしていたように見えた)様子。
今の戦闘でも、単純火力に頼り切った戦い方をしていないこと。
アイスウルフとの立ち位置や、適切な後方支援をしていた。
そして、勝負が決まらないと判断した後での増援。
溢れ出る力を無差別に使っている訳ではなく、本人の思考が色濃く残っているように思えた。
暴走龍力者にしては、異常なくらいクールさも兼ね揃えている。
チンケな剣劇で更に体力を減らしている今なら。
「私にやらせてください」
「時間はないぞ」
リゼルは手を離し、レイズたちに周囲の警戒を指示する。
敵が来ても戦う必要はない。地形を利用し足を奪え。龍を使い視界を奪え。とにかく時間を稼げ、と。
(任せたぞ。レイラ)
(……ありがとうございます)
これで、一対一。
レイラは龍力者へと距離をゆっくりと詰める。剣を納め、龍力も限りなく抑えていく。
できれば、会話をしたいし、それで済ませたい。傷つけたくない。
緊迫した空気が流れる。
不思議と、ミーネの方も襲ってこない。剣は握られ、龍も維持しているのに。
レイラは大きく息を吸う。
そして、ゆっくりと、ハッキリと言葉を発した。
「ミーネ=マクライナさんですよね!?」
「ッ!!」
ミーネと呼ばれた女性の剣先が少し震える。動揺しているのが明らかに分かる。
動揺して剣を振りかざすかと思えたが、彼女はそれをしなかった。顔が歪み、苦しそうだ。何かに抗っている風にも見える。
周囲を警戒しつつも、それを見ていたフォリアが呟く。
「へぇ……面白いね」
「どこがだよ」
レイズは思わずフォリアを睨んでしまう。
自分と同じく、龍魂に振り回され、苦しんでいる。それを見て「面白い」とはいかがなものか。
レイズの苛立った声に気づいたのか、フォリアは悪びれ、頬をかく。
「……ごめん。そういう意味じゃないよ」
「は……?なら……」
「アタシも見たよ。暴走状態の龍力者。みんな、話が通じる状況じゃなかった」
自分が過去に見た暴走状態の龍力者のことを思い出す。
そして、龍魂に苦しみ、名を呼ばれ動揺している彼女を、フォリアは悲しそうな目で見つめる。
「……当然だ。意識なんか、持ってかれる」
「だから……さ。あのミーネってコは、相手が何て言ったかも分かるし、返答も少しだけどできる」
「…………」
レイズは自分の過去やマリナのことを思い出す。
確かに、自分のときは話ができる状況になかった。マリナのときも、特殊ではあったが、会話に関しては似たような感じだった。
「……何が言いたい?」
話が見えてこない。リゼルはフォリアを急かす。
「暴走は間違いなくしているだろうね。でも……」
少し貯め、視線をミーネからレイズたちに移す。
「自分の意思も、絶対にある」
蒼の龍力オーラを纏いし、苦しんでいる女性。
彼女の意識の欠片は、こちら側にあるのか。
フォリアは目の前の情報を漏らさないよう、しっかりと目に焼き付ける。




