調教師の娘
ペルソス騎士団基地の長テスカ。歳はジンより少し若いくらいだ。
団長が軽くレイズたちの紹介を済ませる。
そして、フォリアのために場所を取ってくれたことに礼を言い、本題へと入っていく。
「こちらも進展がありまして」
話を聞いて、レイズたちは驚いた。
昨日の魔物の群れの件が、すでに『四聖龍』の名前で報告が上がっているのだと言う。
「それは、間違いないのか?」
「はい。団長からの連絡で、凶暴化が再度発生していることを把握しました。ですが、規模を調べる余裕はありませんでした。なので、ジンと相談して、四聖龍に書面での応援要請を送ることに。未解決である事実も添えて」
『中身』が変わっているのは重々承知。
だが、他に手段も時間もない。それ故の対応だ。
「……確定だな」
クラッツは視線をずらし、リゼルを見る。彼もそれに気づき、黙って頷く。
あの群れを一掃したのは、四聖龍と見て間違いない。わざわざこのタイミングでは出さないが、レイラも感づいているだろう。バカ二人は、不明だが。
「報告書には人をあなた方のことは書かれていませんでしたが……状況を聞く限り、四聖龍本人でしょう」
「で、どうだ、やはり人は変わっているか?」
「……えぇ。我々との接触を頑なに拒否しています。以前の方とは違い、顔の見えないやり取りを好むようです。確定だと判断してよろしいかと」
「そうか……」
クラッツは分かりやすく落胆する。
疑念の可能性が消え、確定したのだ。ただ、リゼルやレイラは期待しておらず、変わっている前提で動いていた。
責任ある者特有の思考バイアス。それはクラッツも例外ではない。
四聖龍の席を奪う龍力者の存在。
レイラは考え込む。
(四聖龍の存在と地位を知る者の仕業……元四聖龍の顔も知っている……?いえ、探し出したと考える方が自然……)
四聖龍の存在やその待遇を知っている人間は、そう多くない。
それに、席を奪うにしても、現役の四聖龍と接触する必要がある。
普段は力を隠しているだろうから、いくら歴戦の龍力者でも探し出すのは至難。
が、不可能ではない。現役の四聖龍が龍を使ったタイミングで、その存在に気付くことは可能。
だが、それを察知するのに、どれだけの運と感覚と精神が必要なのか、想像もつかない。
(でも、それ(席を奪うこと)のメリットって……?)
四聖龍には破格の待遇を用意している。しかし、その責任は重い。
成りすますにも、レベルの高い仕事が舞い降りてくる可能性も高く、リスクが高い。
なってしまえば安泰、という地位ではない。
そのリスクを取ってまで、四聖龍になりたかった人物。それを実現させてしまう力の持ち主が、確実の存在する現実が国と騎士団に突き付けられた。
(……レイラにはまだ荷が重いだろう。が……王として、知っておく必要がある)
クラッツは彼女を思い、顔を滲ませる。自分で見聞きして正解だった。
非常に難しい問題であるが、一国の王であるレイラにも、リアルでそれの重大さを感じさせることもできた。
「して……いかがいたしましょうか」
「あぁ……ヤツの力は強大だが、今のところは任務をこなしている。敵ではないらしい。対応策は追って連絡するが、結局は様子を見ることしかできないかもな……」
ライブ感のある情報を直に聞けたことは、ヨシとしよう。
力関係で負けている以上、対応は後回しにせざるを得ない。その間に、騎士団の力を上げておき、対立に備えるのがベターな気がする。
「あの」
一つ良いですか、とレイズは手を上げる。
クラッツは手で示し、発現するよう促す。
「……普段、他の四聖龍は何をしてるんですか?」
「我々には分からない。我々が分かっているのは、連絡先だけだよ。書面で送るときも、何か場所を経由させているよ」
「通信珠もそれ専用の物を使わせてもらっています。当然、向こうからかかってくることはありませんな。接触は、本当に最低限なのが現状ですな」
テスカは肩を竦める。
「変な奴らですね……」
「……騎士団はメンツを守りたい。四聖龍は名声よりも自由が欲しい。と理解すると分かりやすいかもしれませんな。手側は我々が頂く代わりに、彼らが人前にさらされることはありません。案外、見知った顔が正体である可能性もありますな」
推測ですが、とテスカは話を結ぶ。
強大な力を持つ者特有の悩みなのか?贅沢な悩みだ。と、レイズは思う。口には出さないが。
「四聖龍が変わっていることの確証が持てただけでも十分か……これを理由に他の四聖龍に変化がないかも確認するか……」
クラッツは自分に言い聞かせるように呟く。
四聖龍の問題はデリケートだ。対応を誤れば、騎士団は影の戦力を失うことになる。
「で、ここから先は凶暴化の話なのですが」
「ん?」
「先日、騎士団の方へ、ある女性の捜索願いが出されました」
テスカは一枚のプリントを机に置く。顔写真と、特徴を書いた文章が載ってある。
写真には、レイラやフォリアと同じくらいの年齢の女性が写っている。名前は、ミーネ=マクライナ。
「彼女は……?」
「この町のイヌゾリの調教師の娘です」
「ほう……イヌゾリの……」
俺らが乗れなかったやつか、とレイズはバージルに囁く。
「文章を見るまで気が付かなかったのですが、最初に連絡が取れなくなった日時が、一回目の凶暴化の報告があった日と近いのです」
「……なぜ今になって?」
前回の凶暴化から行方不明となると、時間が経ちすぎている気がする。
誰も気が付かなかったのだろうか。
「歳は若いですが、フィールドワークが趣味のようでして……時間を見つけては、歩き回っていたようです」
「……でも、あれから何週間も経ってるぞ?」
「えぇ。どういう訳か、数日家を空けて、ひょっこり帰ってくるのを繰り返していたのだと」
「??」
家を長期間空けることが多かったのか。それも、複数回。
それが、彼女の普段の生活か。
「ですが、今回はさすがに帰ってこなさすぎると、両親から」
「凶暴化も……彼女が?」
イヌゾリの調教師の娘。連絡が取れなくなったのが、一回目の凶暴化の時期に近い。
関係性はゼロではなさそうだが、あの規模の凶暴化をこの少女が生み出せるとは思えないのが率直な感想だ。
「調教師の娘……だけでは弱いのであれば……『あの日』の被害者であることが加われば、どうです?」
「!!」
そいつが!?と声を出しそうになるレイズ。
驚きで足が伸び、前の机に、向こう脛をぶつける。
「~~~~~~!!」
「おい、平気か?……って平気じゃないよな」
彼は涙を滲ませ、痛みに耐えている。
「『あの日』の被害者……調教師……凶暴化……」
確かに、状況だけで彼女の仕業であるとは考えにくい。が、あの日の被害者で、龍の暴走と考えれば、可能性はぐんと高まる。




