フォリアの推察
北の地ペルソスのグルメと高級ホテルの夜を満喫したレイズたち。
「おっす。最高だったな!」
「ですね。夜景が最高に綺麗でした」
「飯はどこに行ったんだ?」
「アタシたちは……」
皆、昨夜の興奮が冷めないでいる。各々がどう過ごしたかを共有していた。
しかし、旅行気分もここまで。仕事だ。
「そろそろいいかな?」
「あ、はい」
チェックアウトの手続きをしていたクラッツに呼ばれ、集合したレイズたち。
ここから、ペルソス基地へと移動し、基地長と話をする。その時、昨日の雪崩の件や、魔物の群れについて共有する。
四聖龍の話が最優先事項であったが、生活に直結する事柄が先だ。
「では、行こう」
当然だが、朝は冷える。
だが、人の往来は多く、活気が溢れていた。
雪崩で道が塞がってしまった影響が出始めているのか、物流の遅れを知らせる看板が散見される。
情報に疎いレイズは、思っていたより時間がかかっていると口を開く。
「……龍を使えば(復旧は)すぐだと思ったけど」
「開通自体は速攻だろうな。けど、安全が確保できるまでは止めると思う」
「ふ~ん」
「群れの件も伝えてある。騎士団の監視まだ解かれていないはずだよ」
バージルの説明を、クラッツが補強する。
そう。問題は雪崩だけではない。魔物の件が落ち着くまでは、物流に不便なままである。
唯一謎の男と会ったフォリアは、口のムズムズを感じていた。
言いたい。すごく、言いたい。
(レユーズ……対処はしてたけど……原因ってワケじゃなかったのかな)
再発したということは、原因がある。レユーズは確かに群れを全滅させた。
しかし、あれで終わりだという保証はどこにもない。
銀の町を進んでいくと、ペルソス基地が見えてきた。
レイラはフードを被り直す。リゼルも軽めに被り、不自然さを軽減させる。
団長も合流したことだ。受付は、彼にやってもらおう。
「級友に個人的に用がある。彼らは、私の手伝いをしている者たちだ。信用していい」
「は!」
自分たちの最高責任者が言うのだから、食い下がることはしない。
受付のルールを色々すっ飛ばし、基地内へと入る。
「でっか……」
流石は大都市の騎士団基地。
フリーズルートの基地とは大違いだ。
大きさ、団員の数、トレーニングルームの器具の充実度。全てが違う。
だが、見学に来たわけではない。目的地に直行である。
それが分かっているレイズは、とある人物に問いかけた。
「……おいバージル、トイレは良いのか?」
「「!!」」
事情を知っているバージルとレイラ頭に「!」が浮かぶ。
ゆっくりと瞬きを一回。瞼が上がった時、瞳はレイズを睨みつけていた。
「黙れ。また三連枕を決められたいのか?」
コレの事情は知らないレイラ。
「え?何の話です?」
「……こっちの話だ」
先日行われたピローファイト。その間に炸裂した連続攻撃だ。
それは全てレイズの顔に直撃し、体勢を崩すことに成功。後は大きい枕でトドメ、という流れ。
ただ、そんなことはどうでもいい。
今回は平気だ。
朝食バイキングで、珍しい飲み物も大量に飲んだが、しっかりとトイレは済ませてきた。
そんなバカ話に参加することなく、クラッツはフォリアに指示を出した。
「基地長に会う。悪いが、フォリア君は別室で待機してくれ。話はつけてある」
「……了解です」
当然、フォリアは部屋に入れない。これが同行の条件である。
そのため、別で部屋が用意されることに。
ソファー、机、ちょっとした棚のシンプルな内装だ。小奇麗な部屋ではあるが、暇がつぶせるような道具は置いていなかった。ここで話が終わるまで待機らしい。
死ぬほど退屈だが、丁度一人になりたかったところだ。
「ったく……最高すぎでしょ……」
ソファーに寝転がり、呟く。
興味半分でバージルたちの後を付けた彼女だったが。結果は最高だった。
もちろん、死ぬ覚悟が必要な場面もあったが、それ以上のエキサイティングな経験ができた。
(レユーズ……騎士団……なにかある?)
レユーズと話した時、騎士団の名前をが出た際の雰囲気の変化。それをフォリアは見逃さなかった。
そして、あの言動。何かの因縁があるのか、それは不明だが。
バージルの話では、視察ではなく、何かの調査である。
凶暴化の件であれば、別に視察名目で来る必要もない。それに、あの様子では、凶暴化が再び起こり始めていたことは知らないようだった。
仮に、あれが自分たちの対応力を試す演技だったとしても、結果論になるが、彼は対処できなかった。
ただ、最初の凶暴化が知らぬ間に解決されていたのは気になるところ。
ペルソスの騎士団が対処したという話も聞かない。だから、王都に応援を頼んだとも思った。
しかし、レイラと騎士団長は、現場には出ず、ここまで来ている。
(なら、上層部のいざこざ……?でもそれだったらバージルたちは来なくていい……)
色々推察しているが、末端の団員の情報レベルでは限界だ。
しかし、自分だけが知っている。『レユーズ』と名乗る謎の龍力者を。
このピースが、非常に重要な役割なのは明白。
(レユーズ……意味は、分かんない……だから、暗号って訳ではなさそう……?)
名前にヒントがあるわけではなさそう。
ただ、あの時、一瞬だけ間が開いた。シンプルに躊躇っただけか、何か別の「名前っぽい言葉」を捻りだすのに使った時間なのか。
「がぁ……パンクしそ」
想像は無限大だ。
昨晩のレイラとは、騎士団のことやリゼルのことなどをガッツリ話した。
フォリアも自分の生まれや龍魂のことを話し、彼女を王族だと忘れるほどに距離は近くなった。
だが、肝心の情報は相変わらず渡してもらえない。
即ち、事がそれだけ大きく、公にしにくいこと。
フォリアは天井と睨めっこしながら、思考を巡らせるのだった。
それと同時刻、基地長の部屋に向かっているレイズたち。
レイラは小さめに口を開いた。
「はやり、彼女は待機なのですね……」
「安心してくれ。フォリア君を信用していないのではない。これが本来のメンバーだよ」
「ですが……いや、そうです……ね……」
彼女はそう言い、引き下がる。
「…………」
リゼルは、その様子を黙って見ていた。
フォリアと打ち解けるのは早く、同性の団員と交流し、気分転換ができたと考えていたが、それだけではなかった。
情報を渡しても良いかと思えるほどに、親密になってしまった様子。
彼女が同席しないことに多少の不満があるようだが、これは超えてはならない一線だ。
クラッツが断ったために言う必要はなくなったが、レイラ。気が抜けているのではないのか。
フォリアを信用していないのではなく、規律の問題。
何でもかんでも情報を流すことが、良い方向に繋がる訳ではない。
騎士団のように、巨大で国と密接に関わる組織なら、なおさらである。
「…………」
彼女は納得はしていないようだったが、それ以上何か言うことはなかった。
リゼル的には、彼女の意思を確認しておきたかったが、時間がない。だから、引き下がったのなら、こちらもそれに時間を使わない。
「……ここだ。入るぞ」
クラッツは足を止め、基地長室の部屋をノック。
情報共有のため、入室した。
フリーズルートの時とは状況が変わってしまった。
思い空気感の中、レイズたちの長いミーティングが始まろうとしていた。




