龍と属性
クラッツとリゼルの二人は、ホテル内のレストランで食事を済ませた。
滅多に口にすることのない高級フルコースだ。食事は文句なしに美味だった。目の前に座っている相手がクラッツでなければ、もう少し楽しめたと思うが。
食事代は彼が出してくれた。ホテル代だけで構わない、とリゼルは出そうとしたが、結局クラッツが払ってくれた。その代わり、「話がある」とのことだった。
部屋に戻り、室内の椅子に腰かけながら、リゼルは切り出す。
「……話がある、だったか?」
クラッツは小さく頷き、ソファーに座った。
「あぁ。昼の件についてだ」
そのことか、とリゼルは理解する。
そのことでは、自分も話があった。
「あれをやったのは、凄腕の龍力者だ。それも、暴走レベルを超えている」
「あぁ。暴走している龍力者は何回も見たが……それすら超越している」
『あの日』のことや、レイラと共に世界を回った時のことを思い出すリゼル。
「多分だが、レイラも薄々感じているはずだ。『誰の仕業』なのかを、な……」
そう。
彼女もきっと感じている。
他は、事情を教えていないフォリアは無論だ。そして、あのバカ二人は気づいていない可能性が高い。
感付いているのは、自分たち三人だけだ。
『あれ』をやった龍力者。
「……四聖龍か?」
「…………」
間を置いて、クラッツが言う。リゼルは黙って頷く。
「ふむ……」
世界を飛び回って活動しているクラッツ。こんな情勢だ。当然、龍力者と戦うときもある。したがって、昼の龍力者の実力がどの程度のものかは、傷の痕跡を見ただけでもすぐに分かる。
経験から言って、『普通の』龍力者ではない。悪い言い方だが、騎士団内でもあの力を出せる団員はいないと断言しても良い。
あれが四聖龍の仕業でなくとも、騎士団に属さない『隠れた強者たち』ならば、それはそれで構わない。
自分たちが本当に知らない(敵ではない)強者なら、事はシンプルに終わる。
だが、世界を回っているが、そんな龍力者がいるようには思えなかったが。
「とにかく……昼の龍力者は、属性を持たない可能性がある」
「無属性……か……」
龍には属性がある。
大きく分けて、炎龍・水(氷)龍・風龍・地龍・雷龍、そして、光龍・闇龍だ。属性のない龍など聞いたことがない。
系統的に光と闇に属する龍もいるらしいが、絶対値が非常に少なく、汎用属性として挙げられない。
(無属性の攻撃……我々でも不可能ではない……が)
自分たちも『龍力を込めずに攻撃すれば』無属性として攻撃が通るが、魔物の傷口は明らかに『熱せられた』跡があった。どう考えても龍力を込めた攻撃だ。
考え込むクラッツを遮り、リゼルは続ける。
「傷を調べてみたが、属性は確認できなかった」
「あぁ。それは私も確認した。(万が一にも)龍を使わなかった可能性は?」
「それはない。だが、そうだったとするなら、余計脅威だ」
「そうだな……」
クラッツは胃の位置を押さえる。
(十中八九、四聖龍の仕業だ……が、どうする……)
騎士団と四聖龍の力関係は複雑だ。
そこには一応の決まりごとはあるが、四聖龍サイドがそれを一方的に破ったとしても、騎士団は大きく動けない。
今回のケースは、一応役目は果たしてくれている。その中の人間が変わっている可能性がある、という話だ。
「……我々上層部は、四聖龍に甘えている部分がある」
「だから、手出しできないと?」
「少なくとも、上層部はそう考える。正直、私もその一人だ」
「今回のように、コソコソ調査することが限界だと?」
調査と言っても、騎士団基地を巡って情報を集めているに過ぎない。
踏み込んだ調査は全くしていない。
「あぁ……悪い」
クラッツの顔に覇気がない。悩み事が山積した男の顔だった。
リゼルは息をつき、言葉を止める。
自分たちの地位と、クラッツの地位では見えるものが違う。それに、デリケートな情報だ。持ち帰って相談すべきこともあるだろう。
ここで決断を急ぐのは良くない。
「……いや、こっちも好き勝手言いすぎた。あんたの立場もある……」
「変わっただけでの厄介なのに……そいつ(と決まったわけではないが)に属性がないとは……」
「……今日は休んだらどうだ……僕も流石に疲れた」
今日は色々なことがありすぎた。それも、事が大きな。
ここで考えていても、答えは出ない。
とりあえずは、この区画での四聖龍の調査だ。
リゼルは一度伸びをし、ベッドに潜った。
クラッツも一度だけ笑い、そうだな、と呟く。
横になるが、眠れない。
普段と環境が違いすぎるというのもある。目がギンギンに冴えている。
暗闇の中で頭を巡るのは、昼間のこと。四聖龍のことだ。
(いかんな……そのことばかり考えてしまう……なら)
リゼルの寝息を確認した後、彼はアルコールを求めて夜のペルソスに出向くのだった。




