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龍魂  作者: 熟田津ケィ
ーマリナ=ライフォードー
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守る嘘

バージルは、暗闇の中にいた。

少しひんやりしていて、足は足は地面についていない状態。

宙に浮いているような感覚。心地よい眠り。ただ、危険な眠り。もう少しで、永遠の眠りへと誘われる。

当然、意識のない本人にその危険余地はできないのだが。


「…………」


永遠の眠りまで数分となった時だ。


「きて……起きて……」


暗闇の中で、誰かが声を上げている。


「きて……お…き……」


眠い。暗い。

身体を動かそうにも、思うように動かない。


「ん……」


脳が回り始めたか、そこで、夢か現かは曖昧な情景が浮かんでは消えていくようになる。

銀世界の北大陸。フリーズルートの街並み。ペルソス街道。山小屋。魔物の戦闘。

どれも現実に起きたことであるが、意識朦朧故に、バージルにとっての現実味はない。

どっかで見た風景。本?資料?写真?そんなレベル。


「おきて……ねぇ……」


声がはっきりと聞こえるようになり、五感が戻り始める。


寒い。誰かに触れられている。所々痛む身体。

その苦痛に、顔が少し歪む。

遠くから声が聞こえる。聞いたことのある声だが。誰かまでは判別できない。


「…………」


そして、記憶も戻り始める。

直前、何かと戦っていたような、戦わなかったような。

先程の風景も、全てこの目で見たような。だから、この眠りは安全な眠りではないような。


「う……」


命の危険を察知したか、突如手が動くようになった。

一気に全身の力が蘇る。そして、飛び起きた。


「……ジル!!……たの!?」


身体は起きたが、視界がぼんやりする。声がはっきり聞こえない。

薄い髪色の女性が見えるが、顔が判別できない。


「……うぶ!?……アタ……かる!?」

「ぁ……」


その声の主に応答しようとするが、思うように声が出ない。


「あ……う……」


指が動き、口がわずかに動き始めた。

視界が徐々に明るくなる。


「バージル!!アタシが分かる!?」


視力が戻り、はっきりと見え始めた瞬間、銀髪の女性-フォリアーの嬉しそうな顔が目に入った。


「あ……フォリア……」


良かった。口も動くし、声も出る。


「レイラ!起きたわ!」

「バージル!?」


金色の髪の女性、レイラの顔が視界に入る。


(え……俺……)


自分はどうやら気絶していたようだ。それを理解するのに、数分の時間を要した。

そして、周囲の状況を理解することは、自分にはできなかった。


「……レイラ……俺……」

「良かった……目が覚めて……」


安心したような彼女の声。起き上がり、周囲を見ると、信じられない状況だった。

辺り一面、魔物が倒れている。

群れに出も遭遇したのか、種類は様々だ。大型、小型の統一性もない。


「は……?」


何だ。『これ』は。

魔物の渦に中に、自分たちはいた。

その魔物は全員倒されており、煙を上げている。

倒されてから時間が経過している様子で、その煙も落ち着き始めている。


「……覚えていませんか?」


不安そうなレイラ。


「あ、あぁ……いや、でも、完全には……あれ?」


覚えていないことはない。が、ここまでの道中の出来事はハッキリ覚えている。

ただ、この『群れ』の記憶は、非常に曖昧である。群れ自体は見たが、こんな中心部で出会うような形だったか?と。

状況的に、この中心で意識を飛ばしていたようだが、生き残れるような状況ではなさそうであるが……


「そうですか……」


彼の返答に、まだ頭が混乱している、と思い、引き下がるレイラ。


「バージルが起きたって?」


黒髪の騎士団長ークラッツーが駆け寄ってくる。

彼はしゃがみ込み、視線を合わせる。


「バージル、私が分かるか?」

「はい……」


それだけでない。クラッツも、銀髪のフォリアも、金髪のレイラも分かる。

クラッツより遅れて、レイズもバージルの元に駆け寄る。


茶髪のレイズも分かる。

闇色の髪のリゼルは、互いを確認できる距離で魔物の傷を調べているようだ。

彼は自分が起きても近くには寄ってこなかった。そう言えば、そういう奴だった。


バージルは無意識に『色』から人の判別に入った。

以前と変わりなく見えているつもりだったが、まだ特徴の強いものから見てしまう。


ただ、分かることに変わりはない。


「はい……全員分かります」

「身体は?変なところは?」

「え……っと……多分、大丈夫です……」


痛みこそあるが、後々引きずりそうなそれではない。

傷口が塞がった形跡がある。レイラの治癒術が効いているのだろう。


「よし、とりあえず安心だな」


クラッツは立ち上がり、周囲を見渡す。


「全部倒されているな……本当に大きな力だ……」

「え……?団長では……?」


彼は即座に「違う」と否定する。


「戦闘中、雪崩に巻き込まれてな。全員気を失っていた。起きたら、この様だ」

「リゼルたちが倒れてから、またスノーマンに出会ったんです。それも、もう一段階強力な個体です」

「は!?倒せたのかよ!?」


あのスノーマンは、ガチで強かった。

この群れに心当たりはないが、スノーマンの件は覚えている。


「いえ。スノーマンの起こした雪崩に巻き込まれて……そのまま……」


そうか。フォリアの『タイダルウェーブ』同様、直接手を下すことはなく、勝利を掴んだのか。


「……で、アタシが一番に目が覚めたんだ。雪に慣れていたから、それが影響したのかも」


フォリアは嘘をついた。


命の恩人である、レユーズのことを話そうかと悩んだが、伏せることにした。

本来なら話すべきなのだろうが、「会ったことも内緒にしてほしいものだ」と言っていた。

彼女に、その思いを無視することはできなかった。と言うか、約束したから、流石に。


「凄まじい龍力だよ。ほぼ同時に魔物を倒している」

「同時……ですか」

「あぁ。傷口を見て回ったが、具合から見て、ほぼ同時だよ」

「範囲攻撃……?」

「あぁ。それも、ここにいる魔物全体の、ね……」

「!」


「マジすか」とバージルは驚く。

同時にこれだけの魔物を倒すには、確かにそれしかない。


が、それにしても、傷口は綺麗だ。範囲攻撃のような『雑』になりがちな術では、大量に転がっている魔物の傷口が揃うことはない。

龍術を扱うメンバーは特に、その辺の知識はある。だから、その現場を見ていなくても理解できる。強力かつ無駄がない、精度の高い龍力だ。


「フォリアが起きた時には、この状況だったようだ」

「……ビックリだよ」


その言葉に偽りはない。あの時は、本当に驚いた。

助かったことにも、レユーズの力の強大さにも。


「で、これからどうします?」


フォリアは、一刻も早くこの話題を終わらせたかった。

クラッツに今後の予定を聞いてみる。


「あぁ。どちらにしても、騎士団には報告しないとな。この道の復興も必要だ。このまま、ペルソスまで行ってしまおう」


リゼルとレイラ(特にリゼル)は何か言いたそうな顔だったが、別に口を出してはこなかった。

二人も自分の言葉を信じているのか、具体的に問い詰められることもなく、話は終わる。


「……了解です」


少しの安堵と、大きな不安。これで良かったのか。


レユーズの力は強大だ。なぜ、そのような強大な龍力者があのような場所にいたのか。


『ただの通りすがり』とは思えない。ただ、魔物の凶暴化の再発を知る人間は少ない。山小屋でチラっと聞いた『ヤツ』が動くかもの正体だった可能性もある。と言うか、状況的に、レユーズがそうだと思う。

実際、騎士団を警戒していた様子だったし。だけど、力を見た後だからこそ、強く思う。


「団長たちと引き合わせていい存在ではない」と。


このメンバーで『ヤツ』の何を調査しに来たのかは不明だが、いい意味ではないのは容易に推察できる。

だから、敵対する可能性の方が高い。今の騎士団の力では、レユーズと戦うことすら無理だろう。次元が違いすぎる。


(これで、いいのよ……)


なんにせよ、助かった。


嘘や隠し事はしたくなかったが、今回のケースは特殊すぎる。

心の中で、フォリアは皆に謝罪することしかできなかった。

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