確信
本来の編成(+フォリア)となり、打ち合わせも終了させたレイズたち。
彼らは、ペルソス街道へと進路を戻していた。
良くも悪くも、このメンバーが揃うまで時間を要した。それがあってか、先程の群れがいた場所に、魔物は数体程度だった。
ただ、明らかな痕跡は残っている。消え切っていない足跡や、気が薙ぎ倒された後など、先程のそれは、現実だと思わせるものばかりだった。
群れこそ消えたが、群れから反れた魔物だろうか「興奮気味な魔物」にも数回遭遇した。
興奮しているとはいえ、数は数匹。自分たちで処理できるレベルである。
それが成功体験となり、レイズの調子も良い。
「楽勝だな!」
「ま、苦戦はしねぇな」
彼の言うように、楽勝かは疑問だが、回復術や薬に頼ることなく、通常戦闘が行えている。
今の戦力は、レイズたちに加え、フォリア、騎士団長クラッツ。
レイラやリゼルの基礎戦闘力も高いうえに、団長もいる。恐れるものはない。
実際、団長は確かに強かった。
剣術も素晴らしいのはもちろん、チーム一人一人戦闘力を見極め、時によってサポートしたり、必要なければ一人で任せたり、当然、一人で処理したりと、その場その場で動きが変わっていた。
また、団長を覆う龍力オーラも、力強い。
土龍のオーラが、大地の如くどっしりとしている。クラッツは優顔だが、それとのギャップが激しい。
力のコントロールも、レイラ、リゼルとは別のベクトルで卓越しているように見える。
レイラは安定重視、リゼルはスピード重視っぽくレイズには見えている。が、団長はそれらを併せ持ち、絶対量も多い。あのレベルの力を扱えていても、上がいるのか。
龍力は生活の一部であるが、本当に恐ろしい力である。
団長パーティの中で、徐々にだがレイズにも変化が訪れていた。
「だいぶ慣れてきたな……」
レイズはここ最近、急に龍力の扱いに慣れてきたことに驚いていた。
以前であれば、龍力を引き出すのに苦労していた。同じ技を出すにしても、発動までの時間が短くなっている気がする。
それは、龍力を上手に練れていることが挙げられる。
それに、意識を失うこともない。龍力を高めても自分を見失わない『限界点』が引き上がっているのだ。
「それは良いことじゃないか。レイズ君」
「え?あ、はい……」
クラッツに独り言を聞かれただけでなく、話に入ってこられ、少し驚く。
彼は感心するように微笑む。
「あの日の龍力者で、ここまで龍力を使える人間を見たことが無い」
「……どうも」
良い意味と受け取り、レイズは小さく頭を下げる。
「ここには私もいるからね。思う存分龍に慣れると良い」
「そうですね……そうします」
確かに、ここには騎士団長がいる。龍力を試すには、いい機会だ。
万が一のことがあっても、彼らなら信用できる。
「しかし……魔物は見るが、群れは見ないな」
「えぇ。ですが、予兆はあります」
レイラは同調しつつ、自身の不安を述べる。
時間が経過するにつれ、一グループの魔物数が増えているのだ。
もちろん、その種族数も。
山小屋を出た直後は二、三体であった。しかし、今は倍程度まで増えている。
それでも片手で数えられる程度だが、この傾向はよろしくない。
「ふむ……」
クラッツは顎に手を当てる。
「合流し始めている……?」
「……そう考えていいと思います。散らした魔物のそれなのか、新規のそれなのかまでは、分かりませんが……」
周囲を注意しながら、レイラは言う。
フォリアが散らした魔物が再集合し、うろついているのか?それとも、新規で組み、グループ化しているのか。
前者であれば、予想していた範疇だ。しかし、後者であれば、中々キツい。
暴走の原因が分からないまま、進行形でグループが増え続いていることとなる。
「急ごう。だが、体力には注意しろ。疲れは我慢するな」
「了解です」
クラッツたちは、少し足を速める。
が、その足はすぐに止まった。
「団長……?」
「何だ、この音……」
レイラたちは耳に神経を集中させる。
と、空を切る高い風の音が微かに聞こえてきた。
その瞬間、クラッツは叫ぶ。
「下がれ!!」
「ッ!!」
五人は一斉に背後に跳んだ。
レイズ、バージル、フォリアは背を向けて。前を向いたまま下がれたのは、レイラとリゼルだけだった。
(白い砲弾……!?)
前を見れていた三人は見た。
目の前に影ができたかと思うと、その瞬間、白い塊が降ってきたのを。
砲弾と見間違えるのも無理はない。あの一瞬で、何が飛んできたのは正確に把握するには、短すぎる。
「っぶね~~~~!!」
「無事か!?フォリア!」
「あぁ!無事だよ!でも、何が……」
レイズたちは振り返り、目を見開いた。
白い塊の正体は、雪玉だった。ただ、デカい。
ただの雪玉だが、あの大きさと破壊力。食らえば大ダメージは免れない。
「でかいぞ!!注意しろ!!」
あれだけの巨大な塊を飛ばす魔物。
考えただけでも恐ろしい。
「ん……あれ……」
雪玉が飛んできた方に何かいる。フォリアは目を細める。
「あれ」は、のっしのっしとゆっくりと近付いてきている様子。
程なくして、姿形が分かるようになってきた。
「あれは……スノーマン……」
「え……可愛い名前……」
スノーマンという名前に、レイラはつい思ったことを口にしてしまう。
「おい……(名前とは裏腹に)全ッ然可愛くねぇぞ……?」
バージルの言うように、実際のスノーマンは全然可愛くなかった。
全身真っ白な毛で覆われている人型の魔物で、毛の下の筋肉が(異常なほどに)発達している。興奮しているのか、目は赤く充血しており、大きな牙が特徴的だった。
距離はあるのに、威圧感に怯えてしまいそうだ。
「怒ってる……」
フォリアは続けて言う。
「怒ってる?」
「……スノーマンは普段は穏やかな魔物よ。戦闘も好まないし……個体によるけど、雪道を一緒に歩くレベルでね。てか、あんな筋肉、見たことないよ」
「マジか。そうは見えないな」
バージルは武器に手を置きながら、呟く。
だんだんと近づいてくるスノーマンは、いかにも戦闘狂という印象だ。
普段は穏やか、と言われても信じられない。
「あんな穏やかな魔物が……完ッ全に凶暴化の影響ね。未解決決定よ」
この地域に詳しい彼女が言うのだから、スノーマンの変わりようは本物なのだろう。
スノーマンを見て、「凶暴化の影響だ」と言い切れるのは、彼女しかいない。
一時的に危機が去っただけで、解決には至っていないようだ。
これで完全に確信した。
「どうします?てか、もう戦う寸前ですけど」
フォリアは団長に意見を求める。
「……仕方ない。サポートしてくれるか?」
「了解です」
団長は剣を抜いた。
暴走中のスノーマンの戦力は未知数。まずは、自分が突っ込み、力を量る。
リゼルたちを前衛に出すのかは、その後考えればいい。
「だぁッ!」
龍力を限界まで高め、スノーマンに突撃するクラッツ。
レイズたちは、やや後方で龍力を解放し、彼からの指示に備えるのだった。




