未解決
山小屋周囲に仕掛けた罠を解除して戻ってきたフォリア。
その時には、室内の掃除も終わっていた。残すは、出る時に火を消すだけとなっている。
罠解除にそこまで時間を使ったつもりはなかったが、待たせる形となってしまったか。
「お待たせしました」
「いや、いい。(罠解除)感謝する」
クラッツに座るよう促され、空いている場所に腰を下ろすフォリア。
団長の顔を見るのは二度目だが、初回はまじまじと見る余裕がなかった。いい機会だ、と思い、じっくりと彼を見る。
彼女の視線に気づいたのか、バージルはどこかむずがゆい気持ちになる。しかし、何も言えない。行動もできない。
「…………」
騎士団長クラッツ。
見れば見るほど、整った顔立ちをしている。
豪華な装飾の制服バフもあると思うし、肩書を知った上で見ているため、その追加バフもあると思う。それでも、イイ男だと思う。だが、狙うかと聞かれると、別だ。
(ま、キャリアウーマンってヤツがいるでしょ)
同じくらい努力し、出世を勝ち取った女性の方が似合うだろう。
心の中で笑い、意識から出す。しかし、そんな心中を知るはずもないバージルは、本当に落ち着きがなかった。
唇を締め、悟られぬようにフォリアと団長を交互に見る。
自然と身体が小さく揺れ、手を開いたり握ったりを、しきりに繰り返していた。
だが、そんなこと団長は気にも留めない。
「当初の予定通り、ペルソスへ向かう」
騎士団長が合流し、状況確認も済んだ。
出発からいろいろあったが、ようやくチームが揃った段階である。
そして、ここからは、フォリアがこの部隊に参加する。
「……話を聞く限り、また凶暴化が起こっているらしいね。ペルソスまで行くことができれば御の字だが……群れに遮られ、ペルソスへはいけない可能性もある」
「そうですね……魔物の群れは散らしました。が、倒したわけではありませんので……」
フォリアは申し訳なさそうに言う。
あの状況を打破すべく、自分の最大級の龍術で魔物の群れを散らしたに過ぎない。
「良いんだ。責めてはいない。群れの件については、フリーズルート、ペルソスの基地長には伝えておいた。まぁ、現状守りに徹することくらいしかできないだろう」
凶暴化。
四聖龍が動いた過去から、騎士団の戦力では鎮静化できないことがある意味証明されてしまっている。
フォリアの術である程度『散らす』ことはできたが、問題解決までは至らない。
散らして魔物を少しずつ叩く手もあるが、効率が悪すぎるし、術者のエネルギーや前衛の人手も要る。現実的ではない。
(凶暴化の再発……)
レイラは唇を噛む。
原因が同じかは不明だが、再発した「かもしれない」魔物の凶暴化。
フォリアへの説明では言わなかったが、四聖龍への応援要請も恐らく指示してあるだろう。そうなれば、四聖龍が動く。
合流できた後だし、丁度いい。結果、遅れて正解だったのかもしれない。
「……例の件が動くかも、ですね?」
「そうだ。具体的には言えないが、『ヤツ』が動く可能性がある」
「……ヤツ……」
気になるが、フォリアは追及しない。この場に参加できるだけでも十分だ。
ただ、やはり前回の凶暴化鎮圧も、その『ヤツ』が絡んでいる様子。
『ヤツ』と表現したということは、一人なのか。それとも、全貌を把握していないため、そういう表現になっただけなのか。
(~~~~~考察が捗るじゃん!)
自然と口角が上がるフォリア。
それを見て、「勘弁してくれ……」と言いたげに、かくん、と頭を落としたバージルであった。
団長の話は続く。
「だから、群れに注意しながら、ペルソスに向かう」
「団長がいれば、倒せるのでは?」
純粋なるレイズの疑問。
騎士団のトップである団長がいれば、四聖龍に頼る必要もないのではなかろうか。
「……どうだろうな。規模が規模だ。数体なら倒せるだろうが、多勢に無勢。私一人増えたところで、結果は変わらないだろうな。『基地長には話してある。それで、話が行くところには行くだろう』からね。私たちがここで出しゃばるのは、機会損失だよ」
「……確かに」
流石のレイズも納得する。
団長の表情に変化は見られないが、口調は重かった。
命令口調ではないが、同意せざるを得ない、そんな口調。
実際、ここで自分たちが動くのは、得策ではない。
『行くところまでは行く』これは、四聖龍への応援要請のこと。
だから、ここで良かれと思い、群れの魔物をチマチマ討伐していたら、その間、四聖龍が動かないも知れない。
そもそも論、今回四聖龍が動く保証もない。だが、四聖龍の立場を使い、好待遇で隠れているのなら、動く可能性は非常に高い。
今現在も、その席に座っているのなら、だが……
ふぅ、と心の中で息をつくクラッツ。
(……しんどいな。全く)
問題は山積み。
一つ解決したと思ったら、三つ問題が積み重なっている。
終わる気配が見えてこない。
(魔物の凶暴化……そして、群れ……か……)
シンプルに魔物が凶暴化し、数体暴れているだけならば、一人でも倒せる。しかし、ここで起こった・起こっているのは群れと化している。
話を聞けば、戦闘に参加せず歩き続けた魔物もいたとか。よって、凶暴化(変化)にも程度はあるだろうが、流石に分が悪い。
ただ、そんな状況を、一度は解決している新四聖龍。
圧倒的数と力を、四聖龍がどのようにして事を収めたのか、非常に興味がある。
もしかしたら、この目で見れるかもしれない。
「……ここに来るまで幸い群れは見ていない。今はフリーズルートも安全らしい。一応、群れの動きに注意するよう伝えてあるが……」
山小屋まで来るとき、群れは確認できなかった。だが、町からだいぶ離れたところに群れはいるはずだ。もう少し進めば、ぶつかるかもしれない。
クラッツはフォリアを見る。
「前も、もっと山奥で?」
「……確か、そうです。この辺りは、フリーズルートが近いので。もっと進めば、フリーズルートからもペルソスからも離れ、一気に野生の世界になります」
山小屋付近は、まだ人間の手が入っている。
もっと進めば、完全なる魔物の住処だ。往来には、ボディーガードが必要。
それか、ハイスピードのイヌゾリで走り抜けるか、だ。
「……出現場所も似ている。ヤツが動く可能性も高い」
「明るいうちに進みましょう。群れの動向も確認できるかもしれません」
「そうだな。行くぞ」
その一言で、四人は荷物を背負った。
騎士団が来てから、四人の動きにキレがある。
(緊張してるのね……)
かく言う自分もその口だ。
フォリアも荷物を背負い、暖炉の火を消した。
「見渡せる街道を進む。群れが確認出来たら、状況に応じて進路を変える。迂回することのなるかもしれないが、我慢してくれ」
「了解です」
いざ、ペルソスへ。再出発だ。




