―夢―
スゼイ=フロウという男がいる。
年齢は、二十代半ば。長髪、立たせた金髪。裾が長い白地のコート。前は閉めていないため、コートの下の胸元に包帯が見えている。
幼少期に『適合者』となり、心臓を摘出され、代替心臓を埋め込まれている。
王の身内を救うためだったと、スラムに落ちてきてから知った。
それ以来、スゼイはこの国に復讐するために命を使うと決めていた。
長年の夢が、今叶いつつある。
しかし、彼は今、心に穴が空いた気分になっていた。
(フランバーレ……)
彼は、フランバーレに想いを寄せていた。
彼女はスラムに似合わず、美しかった。仲は普通だと思っていたが、彼女がいなくなってから、彼女の存在の大きさに気付かされたていた。
そんな彼だが、今夢を見ていた。
スゼイの妄想通りの夢だ。
フランバーレと二人。浮遊島でも何でもない。ここは、展望台か。
地平線に沈む夕日。彼女の顔がオレンジに染まる。
「お前が望むなら、このまま行こう。あいつらのことは忘れるんだ」
「……スゼイ」
横顔が美しい。
「……お前は復讐なんて望んでなかった。無理に合わせる必要はねぇ」
「でも、レイは……」
「フン、あいつは去る人間を追わない」
「でも……」
レイやスラムメンバーのことや、グランズへの復讐。
それらを全て投げ出して、自由になりたがっているフランバーレ。
スラムと言う狭苦しい世界から解放されたのだ。
無理にレイやスラムの連中に合わせる必要はない。
「……怖いか?」
「……うん、少し……」
彼女は肩を震わせる。
実際、レイはグループから抜けようと興味すら示さないかもしれない。
しかし、ヒューズなどスラムからのメンバーは違う気がする。
お互いの生死に興味はないが、ここから離れるのは、ある種の裏切り行為だ。
「……オレが、守る」
「え……?」
「あいつらまで追ってくるとは考えにくい、がゼロじゃない。それに、運悪くバッタリ、なんてこともある」
「うん……」
「だから、オレがいる。オレが、全力で守ってやる。だから……」
スゼイは彼女に向き直り、手を差し出す。
「……行こう。自由はそこにある」
「スゼイ……ありがとう」
彼女は手を取った。そして、やや上を向き、目をゆっくりと閉じた。
ぷるっとした唇が光に反射する。
(これはッ……!?)
基本バカなスゼイでも、これは流石に分かった。
彼女の肩を抱き、周囲を素早く見渡す。
大丈夫、誰もいない。
(えっと……!!」
唇が鼻より前に出そうなくらい、口を突き出す。
そして、その距離を詰めていく。
距離が、ゼロになる直前。
スゼイは現実に引き戻された。
瓦礫の衝突音と共に。