―崩落と強襲―
空中都市リムークス。
かつて空に栄えた空中都市も、今となっては廃墟の市だ。
ただ、空中都市の技術は進歩していたらしく、見たこともない建築技術が使われている箇所もあった。
その技術のほとんどが、地上へ伝わることなく、崩壊を向かえたのだろう。
そして、長い間海の底で眠っていたのだ。
「……すっげぇ大きな町だ」
「流石、空中都市ね」
レイズは町を見渡す。
ほとんど(特に背の高い建築物)が崩壊しており、本来の姿ではない。
が、町の規模感は分かる。
「『力』も感じる。近い……」
リゼルは周囲を見渡す。しかし、敵の姿は確認できない。
敵の力はビンビンに感じるのだが、仕掛けてこない。
「私もです。注意して進みましょう」
レイラはエクスカリバーに手を添え、進み始める。
大きなメインストリート。
その両脇に建物が並ぶ。住居、商店、龍力の研究施設。
メインから分岐した通りにも建物が並んでいる。
「え……?」
そして、崩壊しているのは建物だけではないことが分かってきた。
「地面が……落ちてる」
大地の崩落。
道に大きな穴が開き、暗い口を見せている。
「……地下道の影響か……いや……」
浮遊島には、地下道があった。
(僕らが使った地下道に残骸はなかった……複数あるのか?)
自分たちが使った地下道には上からの崩落した残骸は見受けられなかったが、劣化や水圧などにより、崩落してしまった可能性は高い。
「戦う場には向いていませんね。早く抜けましょう」
「あぁ。ここじゃ自由に走れない」
「衝撃に(地面が)耐えられないわ」
レイズたちは、崩落に注意しながら進む。
穴が大きく、通れない場合などは、回り道して穴を回避した。
空中都市は龍力の研究をしていたと聞いていたため、大人しかいないのかと思っていたが、違った。
小さな家具や玩具(と見られる)が転がっているのを見かける。
(戦争で……彼らも亡くなってしまったのでしょうか……)
自分が生まれてすらいない時代の出来事に、レイラはチクリと胸が痛む。
間違いなく、ここで生活していた人々がいる。
顔も名前も知らないが、滅んだ地での生活の痕跡に、途轍もなく切なくなる。
「レイラ」
「!……平気です……」
リゼルの声に、レイラは正気に戻る。
そうだ。
彼らは彼らの人生を生き切った。
今は、今を生きる人々のために、動かなければ。
「……前を見なきゃダメよ。振り返りたい気持ちは振り切らないと」
置いてきた仲間のこと、瀕死で回復の希望がない仲間のこと。
マリナは自分に言い聞かせるように、足を踏み出す。
足底をついた瞬間、床が凹んだ。
「ッ!」
咄嗟に戻ろうとするが、遅い。
マリナが踏み出した先から地面の崩壊が始まる。
「マリナッ!!」
「よせ!」
レイラは必死に手を伸ばそうとするが、それより先にリゼルが彼女の身体を抱え、後ろに走った。
「リゼル!?マリナが!!」
「もう遅い……!!」
レイズは崩壊に巻き込まれないよう、じわじわと後退することしかできない。
「くっそ!」
「みんな……!!」
落下するマリナと目が合う。
彼女の顔は、絶望のそれから、『先に行け』という覚悟の顔へと色を変える。
「振り返らないで!!行って!!」
マリナはたちまち小さくなり、闇の中へと落ちていった。
「また……!」
リゼルはレイラを下ろし、地面を殴る。
彼女のそれは明らかに事故だが、注意していれば防げた事故でもある。
それが、余計に悔しい。
その時、力の気配が爆発的に強くなった。
「「「!!」」」
がば、と三人は顔を上げる。
そこには、黒髪ロン毛、黒ジャケットの青年がいた。
「よぉ。久しぶりだな」
「フリア!」
強力な龍力、闇の霧と共に。
「構え「おせぇぞ」
「!!」
闇の霧は、リゼルを包む。
「リゼル!!」
その瞬間、彼は二人に向かって龍力を飛ばした。
「「ッ!!」」
襲い掛かる闇の霧から逃れた二人。
リゼルだけが闇の霧に呑まれたかと思ったが、フリアも一緒だ。レイズは叫ぶ。
「てめぇ!!」
「……逃がしたか」
フリアの少し惜しそうな声。
再び闇の霧が来るかと思いきや、彼らは霧と共に消えていった。
残った二人は、ただその先を見ていることしかできないでいた。
「「…………」」
訪れる静寂。
ただ、するべきことは分かる。
「……レイラ」
「えぇ……分かっています」
「進むぞ」
「……はい」
返事をし、唇を結ぶ。
自分たちは、歩みを止めない。