―代償―
イクサスは血を吐きながら吹き飛び、木に叩きつけられた。
「が……は……ッ!!」
苦痛に顔が歪む。
そのままずり落ちるかと思われたが、彼は器用に身体を曲げ、木に直角にしゃがむように体勢を変えた。
顔を上げ、一瞬でレイズたちの位置関係を確認する。血が流れ、目に入るが関係ない。
「…………」
前衛に三人。バリア解除直後で大きく動けなかった女王が後方に一人。
(光が一人離れていやがる……なら)
思いの外ダメージを受けてしまった。残りの龍力も多くない。
しかし、人間一人殺す力はある。
イクサスは刃に手を当てる。
「フランベルジュ」
「!」
彼の剣の刀身が波打つ。それと同時に、刀身部が紅色に変化する。
そして、下肢に力を込める。
(龍脚……飛翔!!)
跳躍タイミングのみの、一瞬の『龍化』。
一瞬すぎて、変化が肉眼では分からないレベルだ。
イクサスは、ロケットのように跳んだ。衝撃に耐えられず、彼が足場にした木は根元から倒れていく。
彼は煉獄の炎を纏ったまま、リゼル、レイズ、マリナ、バージルの脇をすり抜ける。
熱を感じる頃には、彼は通り抜けた後だった。
「「「「!!」」」」
狙いは、レイラだ。
(しまっ……!!)
離れていた彼女を狙われた。
全員が振り返る。間に合わない。
「あ……」
レイラ自身も防御態勢に入れていない。龍術に力を割きすぎたためだ。
今、彼女は中途半端な体制である。
「ちっくしょ……!!」
バージルは足元に全龍力を集中させる。
爆発的龍力で、レイラを体当たりで弾き飛ばすしかない。その流れで、自分はスライディングするように離れれば良い。
レイラの目の前に、イクサスが現れる。すでにフランベルジュを掲げている。振り下ろされたら、終わる。
「風爆!!」
バージルも同様に跳躍した。
龍化する時間は無かった。だから、雑だが大部分の龍力を集中させ、爆発させ、動力とした。
「どけぇぇぇぇええ!!」
バージルは凄まじいスピードでレイラに体当たりする。
「きゃ……!」
その瞬間、イクサスと目が合う。バージルは精一杯の生意気な顔を見せる。
「ガキ……!」
彼の思惑通り、レイラは弾き飛ばされ、彼の攻撃範囲から外れた。
後は、自分もこの勢いのままに駆け抜けるだけ。
しかし。
「!?」
下肢への違和感。
(足が……動かねぇ……!?)
それだけではない。彼の足に、激痛が走る。以前痛みを感じた場所だ。
ここ最近の疲労の蓄積に加え、無理な跳躍で痛めてしまったらしい。
「ッ!!」
動けない。
フランベルジュから、逃れられない。
バージルの瞳に、煉獄に燃えるフランベルジュが写る。
「死ね!!」
バージルは、斜めに斬られた。
「!!」
「バージルッ!!」
レイズは走る。
「嘘……でしょ……?」
「そんな……!!」
「カバー!!」
「「!!」」
動揺するレイラとマリナに檄を飛ばすように、リゼルは叫ぶ。
「許さねぇ……!!絶対に!!」
レイズの剣が燃え上がる。龍力が爆発的に大きくなる。
龍が彼の怒りとシンクロしているのだ。
「太陽龍炎刃!!」
「月龍破斬!!」
「蒼雷龍駆!!」
「聖光龍剣!!」
満身創痍のイクサスの身体に、強力な龍力が叩き込まれる。
「ご……ほ……」
彼は無抵抗に飛ばされ、転がった。
「…………」
彼からは、龍力を感じない。
レイズたちは、イクサスに勝利した。大きな代償を払って。