―負担―
レイズたちとイクサスの攻防は続く。
しかし、実際は対等に攻防しているように見えているだけで、実際はイクサスに攻め入られているだけである。
彼の龍力も凄まじいものがあるが、レイズたちもスキルアップ・レベルアップしている。
それ故に、しぶとく戦えている。以前の実力であれば、すでに終わっていただろう。
陣形は乱されているものの、全員が前衛で混戦状態だ。
頻繁に範囲攻撃が襲い掛かってくるが、耐える。イクサスの技や術に、良くも悪くも『慣れ』てきているため、所見のインパクトはない。
しかし、これは『やりにくい』。
マリナが最初に感じた違和感は、これだ。
敵一体。それも、サイズは自分たちと同じ。先日までの巨大な魔物戦ではない。
よって、そのサイズのものに五人で突っ込めば、やりにくさを感じるのは自然。
(このまま、やるの……?)
雷を操りながら、マリナは仲間たちの顔をチラ見する。
彼らの動きに大きな変化はない。陣形を変える気配が感じられない。
(わたし、だけ……?でも……)
頭の悪そうなレイズやバージルはともかく、騎士団で常に最前線で戦ってきたリゼルやレイラがこの違和感・やりにくさに気づかないとは思えない。
(ち……邪魔だ)
(そこは私が行きたい!)
実際、二人も気づいていた。
仲間同士では、龍力によるダメージは通らない。しかし、人がそこに居れば場所は埋まるし、剣を振れば仲間に当たる。
「く……!」
「ッ……!」
分かっている。何か作戦を考えなければならないことは。
しかし、二人とも冷静さを失っている。
ミーネを欠き、数秒で全滅しかけた事実。その精神的ダメージは計り知れない。
それに、別の心配もあった。仮に、前衛を数名下げたとして、残った前衛でイクサスを止められるのだろうか。
誰を下げる?誰を残す?それを考えられる時間は、無い。
「鬱陶しい……クリムゾン・メテオ!!」
「なッ!」
「やべぇぞ!!」
天に巨大な炎龍の紋章。
そして、そこから無数の隕石。『クリムゾン・メテオ』。先ほどのクリムゾン・フレアとは比にならない、超広範囲の龍術だ。
大ピンチだが、好機でもある。
あれだけの龍力を消費してしまえば、龍力のピークは下がるはずだ。
耐えきれれば、の話だが。
「……守って!!守護龍陣!!」
地面に描かれる、巨大な光龍の紋章。
それはレイズたちを守るように、光の柱を展開した。
レイラは両手を上げ、手を広げる。彼らを、守るように。
隕石が、ぶつかる。
一発、また一発と、隕石が柱にぶつかる。
「~~~~~~~!!」
凄まじい衝撃だ。島全体が揺れているかのような錯覚に陥る。
立っていられない程ではないが、その衝撃と揺れにバランスを取るのに必死だ。
(いつ終わるんだ……!?)
実際は、始まって数秒である。ただ、危機的状況故に、永遠にも感じる時の流れ。
空には、まだ隕石が浮遊している。
絶望に落ちる、その直後。
ピシ、と嫌な音が響く。
光の柱にヒビが入ったのだ。
「!」
レイラの顔が苦痛に歪む。
それでも、両手は下ろさない。
「くっ……!!」
ミシ、と柱が歪む。龍の守護も、長くはもたない。
彼女の俯く。金色の髪がさらりと下がる。
(……僕は、馬鹿だ)
その時、リゼルは自分で自分を殴った。手加減のないそれに、鈍い音が響く。
「リゼ……」
「おい……?」
「……術者を叩く。互いを『邪魔しない』距離を保て。僕が先頭に立つ」
リゼルはそう言い残すと、一人、光の柱の外へと走り出した。
振り向くことなく、一人で。