―龍、墜ちる―
完全なる龍魂をコントロールしているミーネ。
しかし、いくら龍力が高いとはいえ、激流の上を素で走るのには無理があるはず。
(どうなってる!?)
渦と共に落ちる中、シェキナーは眉をひそめる。
平面で静かな水の上ならばまだ分かる。しかし、今回のケースはほぼ垂直の激流だ。
(まさか……わたしの渦を利用して……!?)
分からない。分からないが、自分の渦を利用している可能性は高い。
「ち……」
僅かに見える困惑の色。ミーネの思惑通りである。
(……混乱してるわね。そりゃそうか)
そう。
龍力が高かろうと、この激流を無策で走るのは流石に無理だ。
そのため、ミーネは工夫した。
足先にも龍力を集め、渦を一時的に急激に冷却し、凍らせる。
渦全体を凍らせるのは無理だし、力の無駄使いだ。しかし、一部分、自分が欲しいポイントだけなら、無駄にはならない。
凍った部分は、ミーネが足を離せば渦に呑まれていくため、相手にもバレにくい。
自分自身の激流が仇となったのだ。
(ち……どうやったか分からないけど……これで決める!!)
少々驚きはしたが、ここまでくれば、やることは一つだ。
激流展開したうえでの龍墜水撃。これを決めるだけ。
位置関係的には、彼女がこちらに向かってくるためベストとは言えないが、激流はコントロールできる。多少の軌道修正は容易である。
二人の距離が近づく。
距離30、20、そして、10。
「……あぁぁぁぁぁぁああッ!!」
「……おぉぉぉぉぉぉおおッ!!」
お互いが叫び、龍力が激しくぶつかり合う。
疑似的な密室状態のため、龍力の逃げ場がない。
そのため、余計に空間が荒れ狂う。それでも、止まらない。
そして、遂に二人の距離はゼロになる。
「「!!」」
二人は同時に剣を振った。
水龍と氷龍。
お互いの全てを出し尽くした最後の攻撃。
それはお互いがお互いを捉え、全身が粉々になりそうな激痛を走らせた。
術者を失った激流はコントロールを失い、自然の流れに導かれ、地面に滝のように落ちていく。
その際に、激流に混じった氷の巨塊が衝撃で破壊されていく。
二人の龍は、意識が飛んだ状態で激流の中から投げ出された。
そして、泥に叩きつけられる音が二回響く。
水量が落ち着き、激流が途絶える。
荒れ狂い、場を支配していた龍力が、嘘のように静まり返る。
「「…………」」
残ったその場には、呼吸の止まった二人の龍力者が横たわっていた。