―無意識の進化―
ミーネの渾身の一撃は、シェキナーを綺麗に捉えた。
彼女はその一撃を受けきることができず、弾き飛ばされる。
そのまま飛ばされ、自らが展開していた激流の渦に叩きつけられる。
「が……はッ!!」
喉奥から血が吹き出る。
鮮血が激流の水しぶきと混ざっていく。
(決まった……!!)
通常龍力には『攻撃対象』以外にダメージは通らない。
しかし、今回の場合、シェキナーは『誰も渦から出られないように』制限をかけている。
即ち、自分も対象である。そのため、ダメージが通るのだ。
しかし、流石はシェキナー。
激流に呑まれる前に、即座に渦の質を変えた。
「!」
何人も出入りできない激流の渦が、クッションのように彼女の身体を埋める。
衝撃を和らげたのだ。
「ッ……く……」
激痛で顔が歪む。
歯の隙間から血が流れる。口の中が鉄の味だ。
渦はそのままシェキナーをゆっくりと地面に下ろすように流れる。
そして、彼女は着地した。
かなりのダメージだったはずだが、戦う気力は残っている様子だ。
ミーネはそれを認識すると、静かに次の龍力を充填するため、準備に入る。
「ふ~~……」
「この……」
毒づき、剣を一度振り、走り出そうとした瞬間だ。
がくん、とシェキナーの膝が折れた。
「「!」」
本人が思っているより、ずっと身体へダメージは刻まれている。
アドレナリンが暴走しているために分かりづらいが、普通であれば、気を失っているレベルだろう。
彼女はそのまま地面に倒れ込んだ。周囲を展開していた渦も、勢いが失われていく。
「……やった、の……?」
勝った?しかし、渦は完璧に消えない。弱々しいが、なぜかその場に居座ったままだ。
ミーネは首を振り、走り出す。
(油断できない。トドメを!!)
その次の瞬間、シェキナーの龍力の質が変わった。
「……めない」
「!」
全身を包む殺気。途轍もない龍圧。
『完全なる龍魂』の力を身にまとっていても感じる、この恐怖。
「認めない認めない認めない認めないッ!!」
血をドバドバ吐きながら、シェキナーは吠える。
顔を上げた彼女の目は、濃い青色の光を放っていた。
それは、ミーネのように龍とシンクロしたような輝きではなく、ある種の『暴走状態』のようだった。
その証拠(?)に、シェキナーは自意識を保てない様子だ。
「絶対に!!認めないッ!!」
龍力が爆発的に跳ね上がる。
それと同時に、渦が激しくうねり、天高く聳え立った。
「えッ!?」
先ほどの龍力の比ではない。
『契約』の文字が頭を過ったが、完全に吞まれている訳でもない。
それもそのはずだ。彼女には自分を殺し、レイラをも殺す意志がある。ここで終わりにはしないだろう。
「激流よ!!」
シェキナーの号令と共に、水が彼女の足元に集まっていく。
そしてそのまま天高く、水と共に跳んだ。
「!」
みるみるうちに小さくなり、渦の頂点らしき位置まで跳びあがった。
渦が閉じられ、長細いドーム状となる。ドームの頂点に、彼女はいる。膨大な龍力を纏って。
(まさか……!)
渦の流れが真上へと変わる。
「龍・墜・水・撃ッ!!」
激流が天に向き、全て自分に向かって落ちてくる。
そんな状況、かなりの恐怖だが、怯えていては生き残れない。
しかし、シェキナーも無事では済まないような気さえするが、ミーネは先ほど『質』が変わったことを思い出す。
(あたしごと沈む気!?いや……速攻『変えれば』ってこと……)
先述したように、この渦は性質が異なる。この渦は術者自身をも食らう。
しかし、術者故に、質を変えることも可能だ。それには相当なスピードが要求されるが、今のシェキナーなら容易だろう。
強大な龍力と大量の水が落ちてくる。
これを食らってしまえば、本当にヤバい。
(律儀に待つ理由はないわね。氷龍)
(……あぁ)
ミーネを中心に、地面が凍っていく。単に凍っていくのではなく、結晶を生んでいる。
「ふ~~~……」
長く息を吹き、呼吸を整える。
「……セルシウス・ソード」
ミーネの剣に、凝った装飾の剣がダブって見えるようになる。
無意識だが、これは王の知識だ。そして。
「氷河昇龍剣!!」
技の重ね掛け。
これも無意識だが、神の知識だ。
「だぁっ!」
ミーネは跳んだ。
しかし、脚力だけであの高さには届かない。
だから、走った。
激流の上を。