―完全と不完全―
ミーネの『完全なる龍魂』。
彼女の刃に氷が付着し、彼女の周囲を粉雪が舞う。
「ふ~~~~……」
口からは白い息が踊り舞う。
瞳の青みが強まる。
普段は大人しく、無害な彼女の雰囲気だが、押しつぶされそうな圧力を感じる。
「……へぇ」
この強大な力を目の当たりにしても、シェキナーは全く臆さない。
それどころか、より好戦的な龍力を放っている。
「それがあなたの全力なのね」
「……どうかしらね」
素直に「えぇ」と答えても良かったのだが、それは気が引けた。
自ら「これが限界です」と、力の上限を教えてやる必要は全くない。
「なら、わたしも」
「!!」
渦の直径が広くなり、シェキナーの龍圧が急上昇する。
彼女の剣にバブルが発生する。見栄えは強くなさそうなのだが、感じる圧力は段違いに上昇している。
「「…………」」
お互い無言。何か合図があった訳でもない。
それなのに、両者全く同じタイミングで龍力を前方に飛ばした。
「「!!」」
氷の龍圧と水の龍圧が激しくぶつかり、この空間を揺らす。
「ッ……!!」
「ふふ……」
シェキナーは、こちらの龍力レベルに軽く追いついてきた。
今の彼女が『完全なる龍魂』と呼べる領域かどうかは分からないが、フル・ドラゴン・ソウルを超えた力であることは確かだ。
言うなれば、完全なる龍魂の一歩手前。微妙な立ち位置。
憎しみだけで進化したのか。非常に危険だ。
それに、ミーネに分が悪い因子は他にもある。
(この短期間で、ここまで……それに、この渦……鬱陶しい……)
忌々しいこの激流。
シェキナーの龍圧上昇と共に広がりはしたものの、自由に駆け回って戦えるほどの広さではない。
仮に彼女が渦の際まで追い込まれても、リスクは少ないだろう。が、自分は違う。
激流に吞まれてしまえば、最期だ。こちらの氷が長く効かないことは先ほど証明されてしまっている。
完全なる龍魂で龍力レベルを底上げしたものの、激流に揉まれながら激流を凍らせるほどの力が出せる保証はない。
「「!!」」
二人は同時に走り出した。
地面にできる水たまりを散らしながら、激闘は続く。
「水剛刃!!」
「絶氷龍刃!!」
剣と剣とが激しくぶつかり合う。
一発一発毎に空間を揺らし、渦が荒れる。
「まだまだっ!!」
「くっ!」
完全なる龍魂であるミーネの龍力に食らいついてくるシェキナー。
龍力では勝っているはずなのに、どうも押され気味だ。
これは、シェキナーの憎しみによる執着心と、パートナーである水龍とが嚙み合っているために起こる現象だ。
もちろん、術技の練度や、龍力の構成によるものもある。
龍力者同士の戦闘で龍力レベルだけでは勝敗が分からないのは、その要因が挙げられる。
(これで……限界なの……!?)
戦いながら、ミーネの顔に焦りの色が滲む。
ここまでやって『完全なる龍魂』手前の相手にすら勝てないのなら、勝利は絶望的だ。
ならば時間稼ぎを、とも考えるが、こちらのスタミナも無限ではない。
この調子で戦えば、そう遠くない未来、エネルギー切れを起こすだろう。
(一か八か……!!)
ミーネの目が蒼く光る。
腰をゆっくりと下ろし、重心を下げる。
そして、今出せる限界の龍力を解放した。
「!」
途轍もない冷気が空間を支配する。
やがて、激しくうねる渦の表面が凍り始める。
そして。
「絶氷蒼龍王剣!!」