―進化―
「……ところで、弟の姿が見えないけど?」
「あぁ。クオルね」
ミーネは、少しでも時間を稼ぐため、興味もない話題を振る。
「死んだんじゃないかしら?思いの外ダメージが深くてね」
「かしら?……知らないの?……弟でしょ。どういうこと?」
「会ってないわ。どこにいるかも分からない」
「……最低ね」
冷たく言い放つミーネ。しかし、シェキナーは動じない。
「……国民全員を混乱の渦に落とした国は最低じゃないのね。勉強になるわ」
「だから、それは黒ま「そこまで読んでやりなさいよ」
「…………」
ぴしゃりと言い放つシェキナー。ミーネは何も言えない。
国を恨んだ日もなかったとは言わない。しかし、レイラやリゼルとの旅で、彼らは必死に国の再建に努めていた。
騎士団も例外ではない。裏組織である四聖龍も、だ。
だが、シェキナーのように『救われなかった側』から見れば、恨みしかないのは当然だ。
真実がどうであれ、起こった事実はシェキナーが体験したこと以外にないのだから。
ミーネが実際に見聞きしたことをいくら話そうが、無意味である。シェキナー側にそれを証明できないし、証明できたとしても、彼女が救われなかった事実は変わることがない。
「わたしの最優先課題は、あなたを殺すことにシフトした。ただそれだけ」
「……そう」
「えぇ。その後は、レイラを殺す。これは絶対にやってみせるわ」
「……なら、絶対に阻止しないとね」
ミーネは構える。
それを見て、シェキナーも構える。
水流の勢いが衰え、徐々に高さが低くなっていく。
しかし、その渦が完全に消えることはなく、木の二倍くらいの高さで落ち着いた。
「……逃げ場はないわ。覚悟しなさい」
「……出れるのは、一人ってことね」
「そ、わたしだけってこと」
ヒュ、と空を切る音が聞こえたかと思うと、シェキナーはミーネのすぐ前まで移動していた。
濡れた冷たい刃が首を狙う。
「!!」
ミーネは咄嗟に身体を捻り、かつ剣で軌道を反らす。
以前の実力であれば、今の一撃だけで勝負が決まっていた。
剣同士が擦れ、火花が散る。
水と氷が飛び散る。
「だぁぁぁぁっ!!」
「はぁぁぁぁああっ!!」
空気を凍てつかせながら、ミーネの氷龍がシェキナーを食らおうとする。
しかし、シェキナーも龍力レベルもかなり上昇しているらしく、激流に剣が弾かれてしまう。
彼女はそのままの勢いでミーネに深手を負わそうと襲い掛かる。
「っ!!」
ミーネは慌てて即興の氷盾を具現化し、致命傷を避ける。
休んでいる暇はない。
右足を後ろに回し、一旦踏み込み、飛び出す。
「絶氷剣!!」
「水刃」
ぶつかる瞬間、凄まじい龍圧を生む二人。
龍圧は展開されている渦にぶつかり、大きなうねりを呼ぶ。
それでも、渦の勢いは衰えない。
技は互角か、ややこちらが不利。
身体が温まってからギアを上げたかったが、仕方ない。
(氷龍……いくわよ)
『完全なる龍魂』を。