―状況変化―
さんざん悩んだ挙句、レイズたちは彼女を置いて先に進んだ。
しかし、気になって仕方ない。
「…………」
何度も、何度も振り返り、後方を確認する。特にレイラは。
確認する度に見える、天まで伸びる水の渦。シェキナーが、あれを展開したまま戦おうとしているのだろうか。
「あいつを信じろ……!」
「分かっています……!」
彼らが歩みを進むと決めた理由は、状況が変わったからである。
実際、ミーネを置いていくかどうか相当悩んでいたため、なかなか場を離れることができなかった。
『あの状況』を知るまでは。
時は少し遡る。
「……いつまでそうしているの?早く行って!」
渦の外で動くに動けないレイズたちに、ミーネは苛立ちながらも声を張る。
悔しいが、こうなった以上、自分を置いていくしかない。
そんな時、シェキナーが口を開いた。相変わらず悪い顔をしている。
「……良い情報をあげるわ。優柔不断なお仲間さん」
「良い情報、だと……?」
「えぇ。あなたたち、時間は割と余裕があると思ってるでしょ?」
「……?」
『時間』
それについては、あまり考えもしなかった。
老龍山の上空。場所が場所故に、邪魔も入らない。
ただ、環境に身体を慣らすため、安全が確保されていそうな場合は場に留まり、この空気に触れるようにはしているが。
「この島は、あなたたちが侵入してきた後に、移動を開始しているわ」
「何だって!?」
全く気づかなかった。
言われてみれば、重たい雰囲気だった空気が晴れている気がする。
ただ、空中ということもあり、風景が変わっていないため、言われてみないと分からない。というか、人によっては、言われても分からないレベルだ。
「危険区域から外へ……そして、生活区域へ……」
クスクスと笑うシェキナー。
人間が立ち入らない危険区域から、生活区域に移動するという意味。
「それって……」
「そう言えば、島の底に……兵器が備え付けられていたわね。あれで地上を攻撃すれば……」
「ッ!!」
リゼルが舌を打つ。
各町や村に騎士団を配置して守備を固めてはいるものの、この島からの攻撃を完璧に防げるとは思っていない。
照射されるエネルギーは、恐らくレイが出すことになるはず。そんな攻撃を防ぐことができる団員は存在しない。
町や村に当たらなくとも、地上に当たれば地形を変えるし、海に落ちれば海域が荒れる。
「脅しじゃなかった、ってことか……」
「あぁ。兵器が足されてたのは、威嚇のそれじゃなかったみたいだ……」
「噓……」
「そんな……」
大して意識していなかった時間。
急にレイズたちに焦りの色が浮かぶ。
島の移動スピードは分からないが、そろそろ危険区域を出ていてもおかしくない。
レイズたちが静まり返った瞬間。
タイミングを見計らったかのように、衝撃音が響いた。
「!!」
巨大な砲撃が放たれたかのような音だ。
そして、直後の地響き。レイズたちはふらつくが、耐える。
「まさか……!!」
地上への攻撃。
それが今、始まったというのか。
「……分かったでしょ!?あたしに構ってる暇なんかないの!!」
「!」
「……ミーネ。任せるぞ」
リゼルの冷たく、重い口調。
断腸の思いでここを託す。その決断の重さである。
「……ありがとう」
聞こえたか分からない礼。ミーネは呟き、前を向く。
「くっだらな……」
心底嫌そうな顔で、シェキナーは舌を出す。友情とか、仲間とか、反吐が出る。
「……待たせたわね」
そこで、ミーネは構える。
彼女を止めるために。彼女を、殺すために。