―襲来―
進む度に、ミーネの顔色は悪くなっていく。
「…………」
休んでどうこうなる問題ではないのは分かっている。
しかし、こうなると気を遣わずにはいられない。
「ミーネ?少しくらい、龍力を使っても……」
恐る恐るレイラが声を掛ける。
「そうだぜ。その殺気だって、龍力者のだろ?」
「……うん」
ミーネは小さく頷く。
老龍山の混沌とした空気感ではなく、この殺気は龍力者によるもの。魔物のそれではない。
「なら、丸腰(龍力なし)は危ないぞ。極寒の地で素っ裸みたいなもんだ」
「……うん。けど、少しでも力を温存したくて」
「…………」
気持ちは分かる。
敵の強さは未知数だ。長いこと同じ相手を追いかけているが、本気で剣を交えたことは少ない。よって、具体的な龍力クラスは未だ不明である。
分かっているのは、主要メンバー全員が『完全なる龍魂』の領域にいることだけだ。その先のことは分からない。
流石に見かねたのか、リゼルが口を開く。
「ミーネ。それで自分の体力を過度に削るのは本末転倒だぞ」
「リゼル……分かってる。けど……」
「……その殺気……それだけの力を感じるのか」
「……うん。『戦える力』を残しておきたいの」
ミーネは『龍力』ではなく、『戦う力』と表現を変えた。
自分自身の体力だって戦う力の要素の一つだ。だが、彼女はそれらを含め、広義とした。
「……そこまで言うなら、いいだろう」
リゼルは歩みを進める。
(今のミーネは弱くない。だが、それでも力を温存するレベル……)
誰が待ち構えているのか想像するしかできないが、初っ端から実力者をぶつけてきたようだ。
(スゼイ。フリア……イクサスか?だが、僕たちは全く感じない……)
ミーネの主訴である殺気を自分たちが感知できないのはおかしい。
予想したその辺りの敵であれば、少なくともレイラには殺気を飛ばしている筈。
なぜ、ミーネだけなのか。
その理由は、龍力者の攻撃を見て、理解することになる。
「……!!」
ぶる、とミーネは激しく身震いする。
全身から血の気が引く。と同時に、ミーネは龍力を解放した。
「どいてっ!!」
龍力を解放したと同時に、他の仲間を気合で吹き飛ばした。
「「ッ!!??」」
突然のことに驚きながらも、振り返りミーネの方を見る仲間たち。
そこには。
「え……!?」
天まで伸びている水の竜巻が、彼女の周囲を囲むように現れていた。
高さもあるが、かなり広い範囲を覆っている。
「あれは……!」
この力。見覚えがある。
レイラの苦々しい記憶が蘇る。無意識に手の甲に視線を走らせる。あの時は、本当に終わりだと思った。
「…………」
渦の中で、ミーネは冷気を放出する。
激しくうねり狂っている水流が、徐々に凍てつき始める。
「……来たね。シェキナー……」
ミーネは白い息を吐きながら、静かに呟いた。