―一人だけを狙う殺気―
レイズたちは、敵を倒しながら進んでいる。
浮遊島が海に浮かんでいた際に迷い込んだ魔物、老龍山のピリついた空気にあてられ、凶暴化した魔物も一部いた。老龍山と同じ空気ではあるが、実際の生存競争は行われていなかったため、そこまで苦戦はしていない。
そして、敵は魔物だけではなかった。
エラー龍力者だ。
レイを信仰しているのか、それとも国への恨みか。
強敵と呼ぶほどではない。が、彼らの恨みつらみを真っ直ぐに受けるレイラの精神的ダメージは計り知れなかった。
彼女は気丈に振舞っているが、実際のところどうなのだろう。気にはなるが、聞かない。
「……鬱陶しいな」
「俺たちの力を少しずつ削ってきやがる」
レイにそこまでの狙いがあるかは不明だが、これでは本丸にたどり着く前に力を大きく消費してしまう。
「……この程度でへばるなら、どっち道無理ってことよ」
「マリナ……」
「そう、だな。俺たちは進む。何があっても。だ」
「はい。先は見えています」
まだ空中都市とやらは見えてこないが、地下道からかなり中央に進んでいる。
道もだんだんと広くなっており、戦いやすい。
「……ねぇ、気づいてる?」
「え……?」
ふと、ミーネが口を開く。
その顔はやや蒼白で、額には脂汗が浮かんでいる。
「ミーネ!?」
「……そう。あたしだけ、か……」
ミーネは自分の身体を抱くように腕を回す。
仲間たちが驚いた、今の反応だけで分かる。
(この殺気……)
この異様な殺気は、完全に自分に向けられているもの。
寒いわけではない。だが、この背筋が凍るような異様な圧力は何だ。
「大丈夫……な訳ねぇな」
「おい、休憩を……」
しかし、ミーネは首を横に振る。
「……良いの。これは『そういうの』じゃない」
「ってことは……」
「えぇ。『敵』ね」
ミーネは鋭い目で前方を睨む。
距離及び具体的な方向は分からないが、この先にいる。
自分だけを殺そうとしている敵が。
「……良いのか?」
彼女の覚悟は本物だが、実際に身体が動くかどうかは別問題だ。レイズが最後の確認する。
「あれだったら、龍力を……」
「……えぇ。でも、この程度で龍に頼る訳にはいかないわ」
「……強いな」
バージルは感心する。
ここまで身体症状を与えられたなら、多少龍力を使っても文句は言わない。
だが、彼女はそれをしない。
これは、敵の強さを物語っている。
今龍力を使えば、身体は多少楽になる。しかし、龍力の総量は減ってしまう。
ミーネは、それすら惜しいと考えている。
「進むぞ?良いんだな?」
「……うん。そうして」
明らかにヤバそうな状態だが、ミーネは止まろうとしない。
ならば、自分たちはそれに従うだけだ。