―敵―
アレクの残留龍力を追うリゼルと、彼に付いていくレイズたち。
残留龍力を感じれるのは一瞬かつ途切れ途切れで、かなりの集中力が必要なようだ。
彼はずっと厳しい顔で周囲を注意深く確認している。
「リゼル……」
そんな彼の様子を、レイラは心配そうに見つめている。
光龍である自分なら、不利属性である自分も過敏に感じられそうに思うが、どうも感じられない。
闇龍時代の記憶が影響しているのか、アレクが同族にのみ感じれるように変異させているのか、その辺りのことは分からない。ここはリゼル頼りになってしまう。
「……『上』に来るとよく分かるな。魔物が戦ってやがる」
「そうだな。大型ばかりだ」
風景ばかりに気を取られていたが、魔物の戦いも同様によく分かる。
流石に肉眼で見える距離で命のやり取りは行われていないが、叫び声や殺気の気配が方向距離ともによく感じられる。
皇獅子ゴールドライオ以降に相手をした魔物は中型が多かったが、はやり大型の魔物は存在する。自分たちは、運が良かったらしい。
「……そろそろ、消える」
「!」
リゼルが呟いた瞬間、レイラも一瞬だけ感じた。
アレクの闇の力を。
そして、凍てつくような笑みと、闇色のオーラを放つ剣のイメージが脳裏に飛び込んできた。
「ッ……!」
脳を殴られたかのような衝撃に、ぐら、とレイラは身体がふらつく。
「レイラ!」
すかさずリゼルが支え、レイラは倒れずに済んだ。
彼女のその顔は、高熱でも出たかのように真っ赤で、汗びっしょりだった。
「はぁ……はぁ……」
「嘘、だろ……?」
「一瞬で……」
リゼル、レイラ以外の仲間は何も感じられていない。そのせいで、余計な恐怖心が煽られる。
ただ、レイラは気丈に振る舞う。
「だい……じょうぶです……少し、気を抜いていたみたいです……」
「…………」
彼女の高い体温を感じながら、リゼルは思う。
(違う。アレクの龍が攻撃的だった。)
一瞬で彼女をここまで変化させたアレクの力。
単なる残留龍力だけでこうなるとは考えにくい。道標として残したのもあるだろうが、『敵意』も感じられる。
環境に慣れるため、レイラが龍力を高めていなかったことを考慮しても、これはやりすぎだ。
「……よく聞け。今から、アレクを『敵』とみなす」
「リゼル!?」
「見ただろう。レイラがここまで精神的ショックを受けた。目印として残しているには、おかしい龍力の質だ」
「…………」
確かに、言い返すことができない。
アレクを信用したい気持ちはあるが、レイラにここまでの精神的ダメージを与える龍力を残す意味が分からない。
仮に『敵の強さのレベル』のイメージを与えるという名目があったとしても、意味不明だ。
『敵意』を込める理由にはならない。
「幸い、転移点はすぐそこだ」
「!」
リゼルは指で目の前を示す。
そこには、微かな赤い円が点滅していた。
「……体調を整えて、乗り込むぞ。アレクも潰すつもりでいろ」
有無を言わせない、リゼルの口調。
かなり頭にきている様子だ。実際、自分たちもそれは同じ。
「あぁ!やってやるさ」
「うし。やるか!」
「……スゼイ……今度こそ」
「……長かったわ。本当に」
ここからが、人類を拒絶する区域の最奥。
浮遊島の進行が始まる。