―不穏―
皇獅子ゴールドライオは老龍山の頂点捕食者に近い存在だったのだろう。
あの後出会う魔物も平均的に強いには強かったが、そいつほどではなかった。
そのため、龍力の解放と温存のバランスを取りつつ戦えている。
稀に亜種と言うか、強個体に出会うこともあるが、ゴールドライオほどのインパクトはない。
ただ、莫大なエネルギーを扱い続けられるほどレイズたちは強くない。
休憩もしっかりと取りつつであるため、進行スピードは決して速くない。
山頂に近付くにつれ、棘の数が多くなり、一本一本が細くなっていく。ただ、それでもレイズたちの背よりも高い。
口には出さないが、仲間たちは疑問を強く抱くようになる。
(ここまで来てるのに、四聖龍に会えない……どういうことだ?)
レイラに対する忠誠心が芽生えたように見えたが、彼らは同行ではなく、先行を取った。
ここまで来て逃げ出すような連中ではない。
それなのに、一向に会える気配がないのはおかしい。
先行しているならば、魔物と争った跡があってもいいはずなのに、それが見られない。
自分たちのルートが外れているから、と言われてしまえばそれまでだが、進むにつれ、ルートは絞られる。
偶然合流できてもおかしくないと思うのだが。
また、休憩を取りすぎているから、とも思うが、それにしたって戦闘の跡がないのは不可解である。
自分たちが先頭ならば、話は変わってくるが。
(そうだ。僕たちが先頭にいるなら、不思議はない……なら、四聖龍はどこに……)
あれだけ心配していたレイラですら、四聖龍のことを口にしなくなっている。
これは、彼女も薄々感付いている。
『嫌な予感』を。
(やられたのか……?まさか……)
フランバーレに?とも一瞬考えるが、彼女はシャレムたちを「逃がした」と言った。
ヘイトを向けさせない嘘だとも思うが、光を見つめなおしている彼女だ。嘘をつくような感じではない。
実際、リゼルは感じている。一瞬だったが、アレクの闇の力を。
少なくとも、その時までは進行していたはず。ならば、『何かあった』のはその後になる。
(フリアたちか……?いや、なら、僕らも遭遇しているはずだ)
敵との遭遇は考えにくい。
四聖龍だけ遭遇して、自分たちがスルー出来ている訳がない。そこまで来て間抜けな連中ではないことは分かっている。
(魔物……か……)
可能性が一番高いのは、これだ。
皇獅子ゴールドライオ級の魔物に出くわし、やられてしまった可能性は十分考えられる。
(最悪だ……安否も分からないまま、上につくなど……)
気配を探ろうにも、相変わらずの殺気と圧でカオス状態だ。
範囲外の気配を探ることは不可能に近い。アレクの禍々しい龍力のように、特徴が強ければ話は変わってくるのだが……
(……居ない以上仕方ない。僕たちだけで、進むしかない)
四聖龍は死んだ。
その可能性が高まった今、動けるのは自分たちだけだ。
リゼルは気合を入れ、前を向く。