―憧れの龍力者―
「イルザーラ!!」
「イルザーラさん!!」
ゴールドライオがレイズたちへと標的を移すと同時に、二人は彼女の元まで到達した。
「っ……」
イルザーラは血まみれの傷だらけで、今にも倒れそうだ。
それなのに、口から出た言葉はミーネを案ずるものだった。
「はー……はー……ぶじかい?おじょうちゃん……」
かすれ声で、小さな声。相当なダメージを受けている。
しかし、それでも彼女はミーネを守り切った。
「!……は、はい……」
ミーネは腰こそ抜けているものの、氷の盾を具現化しているなど身を守る龍力は発動できていた。
ただ、相手はこの程度の盾を無意味にするほどに力を付けているが。
「はは……よかった……」
彼女の無事を確認した直後、がくん、とイルザーラは膝を折り、地面に跪きかける。
「!」
レイラは慌てて彼女を支える。彼女の手や服に温かい鮮血が付着する。が、彼女は気にしない。
「すぐ治します!!」
「……やめときな」
「でも!」
「すこしやすめば……なおるさ。アタシはがんじょうなんだ……」
「ですが……」
このままで放置する訳にはいかない。レイラは無理矢理にでも光龍の紋章を描こうとするが、うまく描くことができない。
紋章が書かれては、ぐにゃりと曲がり、粒子となって消えていく。龍力がそこで安定しないのだ。いったい、どうなっているのか。
「はは……ていこうしてやったぜ……じょおうさまに……」
「そんな……そこまで……」
その様子から、イルザーラが纏っている微かな炎龍の力が、彼女の光龍を邪魔しているようだった。
こうなってしまえば、治癒術はかけられない。
「そん……なことより……」
痛みに耐えながら、イルザーラは周囲を見渡す。誰かを探している様子だ。
「いた……」
鋭い目つきで、マリナを睨むイルザーラ。
彼女と目が合い、マリナは怯む。今にも死にそうなのに、すごい眼力だ。
「え……」
「あんた……アタシに……かったんだよ……?」
マリナとイルザーラ戦で、マリナは勝ちを収めている。
しかし、彼女との試合は『龍力切れ』だった。よって、気持ちよく勝てた訳ではない。だが、勝ちは勝ちである。
「おおきなちから……それをひっくりかえした、あのしあい……」
「イルザーラさん!!喋らない方が……!!」
彼女が口を開く度に傷口から血が流れる。それだけ力んで言葉を発している。
しかし、レイラの悲痛な声も虚しく、イルザーラは喋りを止めない。
「あれで、アタシはあこがれた……とししたの、あんたに」
「……!」
「あんたたちが、あそこにいくのはわかってた……だから、つよくなったアタシをみせて、おどろかせようと……おもったのに」
イルザーラは歯を食いしばる。喉の奥で、血が吹き出る音が聞こえる。
非常に痛々しく、見ていられたものではないが、マリナは目を反らせない。反らせてはいけない。
「それが、あんたの……げんかいなのかい……?」
「…………」
「アタシは……みるめがなかったのかい……?」
イルザーラに真っ直ぐ見つめられ、マリナは唇を噛み締める。自然に拳に力がこもる。
「……勝手なこと、言わないで」
「マリナ……」
マリナの顔は、動揺や怒りなどの様々な感情が入り乱れているそれだった。
言葉も、突き放すような厳しい言い方だ。勝手に憧れて、勝手に失望して。自分勝手すぎる。
しかし、マリナの周囲には蒼い稲妻が駆け巡る。
今までで一番稲妻量が多い気さえする。心なしか、イルザーラの顔が安堵に変わっていく。
「けど、見てて」
「はは……」
マリナはそれだけ確認すると、踵を返した。
「レイラ。ミーネ。もう十分よ。後はそっとしておいてあげて」
「……ありがと。すこし……ねるわ……」
「…………」
レイラはゆっくりと棘の面にイルザーラを預ける。
イルザーラはすでに目を閉じており、「ふーーーー……」と、息を長くついていた。
その顔は、非常に安らかだった。
レイラとミーネはその顔をしっかりと脳裏に焼き付ける。
特にミーネは。自分を守って、彼女は眠りにつくのだから。
二人はは何度も振り返りながら、龍力を高めていく。
そして、先を歩いているマリナに並んだ。
「……分かってると思うけど」
「はい。終わっても、見に行きません」
「……えぇ。あたしも、見ない」
雷、光、氷。
新たな決意を胸に、その三龍は限界を攻めていく。