―皇獅子ゴールドライオ―
「…………」
レイズが巻き上げた砂煙、そして、龍力による余波の煙が徐々に晴れていく。
仲間たちはいつでも動けるように姿勢を低くし、目の前のことに集中する。
砂煙に巨大な影。それは、ゆっくりと動いている。案の定、倒れていなかった。
ゴールドライオはそこから攻撃を仕掛けることなく、砂煙が晴れるまで動かなかった。
砂煙が晴れた後、レイラは素っ頓狂な声を上げてしまう。
「え……?」
ゴールドライオの姿が変わっていたためだ。
ゴールドライオそのものの特徴は残っている。
ただ、鬣や脚の毛が黄金色に輝き、逆立っている。そして、血の巡りが以上に高まっているのか、身体や脚など赤みが増している。
目の赤みも増しており、余計に威圧感が増している。
絶望が、周囲を包む。
レイズは、何の気なしに『それ』と目を合わせてしまった。
「……!!」
その瞬間、レイズの『タマ』は縮み上がった。
圧倒的恐怖。今から、狩られる。逃れられない、死の恐怖。
今までの努力が一気に崩れ落ちる音すらも聞こえてくる。
足元が安定しない。膝が震えている。どんなに力んでも、その震えは止まらない。
呼吸を忘れる。
吹き出る汗で下着が濡れる。しかし、気にならない。自分は、今から死ぬのだから。
「レイズ!!」
耳をつんざくレイラの声。
「ッ!」
我に返り、周囲を見渡す。
仲間たちはすでに走り出しており、呆然と突っ立っているのは自分だけだった。
「馬鹿野郎!!死にてぇのか!?」
バージルは叫びながら、風を起こす。
「く……!」
その風によって動かされたかのように、レイズはそのまま走り出した。
(『奥の手』ってヤツか……!やべぇぞ)
バージルは心臓の高鳴りを感じながら、がむしゃら走る。
一点に留まれば、一瞬で狩られる。障害物を利用しながら、できることを考えろ。
先ほどまでのゴールドライオとは、間違いなく格が違う。
生体に秘めていた筋肉を最大限膨張させているし、血の巡りを操作することによって運動機能も飛躍的に上昇させているだろう。
黄金色に輝くまでに変化した体毛、それがビンビンに逆立っている。この変化からも、凄まじいエネルギーがあの身体から発せられていることが容易に想像できる。
ゴールドライオの一時的進化。皇獅子ゴールドライオ、か。
(時間で治まるのか?それとも俺らが死ぬまで……!?)
バージルの龍力量は低くないが、この動揺で最高到達点からは落ちている。
この状態で技や術を撃っても、まともにダメージを与えられないだろう。
先ほどのレイズをサポートする際の攻撃ですら、精一杯の力で撃った。
今のゴールドライオに、あの攻撃が通用するとも思えない。
あれこれ考えているうちに、ゴールドライオは姿勢を低くした。
「あっ……!」
「!!」
次の瞬間、ゴールドライオは跳躍した。その先には、ミーネがいた。
獲物まで一直線だ。
生えている棘を次々と破壊しながら彼女まで突き進んでいく。
減速することなく、凄まじい跳躍スピードのまま、ゴールドライオは前脚を振りかぶった。
その刹那、白銀に輝く爪が伸びるのを、彼女は見た。
「逃げろぉぉおおお!!」
「ミーネ!!」
遅い。ゴールドライオは前脚を振り下ろした。
「!!」
地面が、割れながら崩壊する。四方八方にヒビを入れ、崩れていく。
大地が崩壊する音を聞きながら、仲間たちは目を凝らす。
ミーネは無事なのか?うまくかわしたのか?
リゼルは体勢を整えながら、仲間に指示を飛ばす。
「上がるぞ。近づきすぎるな」
「えぇ!!」
「クッソ……!」
レイズたちが距離を取りながら確認しに行くと、そこには……
「あれは……」
「…………」
長い赤髪で、露出の多い恰好の女性がいた。
その女性は、斧を器用に盾代わりにして、血だらけでミーネの前に立っていた。
「あいつ……!」
「あの方は……!」
マリナは、彼女を知っている。マリナだけではない。リゼルやレイラも、彼女を知っている。
マリナとレイラは、同時に叫んだ。
「「イルザーラ!?」さん!?」