―雷―
「!!」
大地が割れる。
五本の巨大な溝を作り出し、底から亀裂が走る。足場としては最悪だ。
レイラのガードは全力。
しかし、ダメージを受けている。
これ以上彼女を目の前に置くわけにはいかない。
気合いの意味で、リゼルは自分の胸を殴る。
ここで戦えなくて、何が「レイラを守る」だ。笑わせるな。
自分の生きる意味を、(勝手に立てた)誓いを忘れるな。ボケが。
リゼルは姿勢を低くして走る。足場は悪く、いつもほどスピードは出ないが、関係ない。
渾身の龍力をのせ、ゴールドライオの脇腹に斬りかかる。
「どけ!!」
しかし、弾かれる。
単純に力が足りていないのか。龍力の構築・生成に抜かりはなかったはず。
ならば、もっと力を。
(この……!)
「リゼル!!避けて!!」
レイラの悲鳴交じりの声。
「!?」
彼がその理由を理解する頃には、もう遅かった。
ゴールドライオの開いた口。そこに、高密度なエネルギー体が出現していた。
(こいつも……!!)
死ぬのか?ここで?
エネルギー体が放出される。
攻撃直後でガードの姿勢が取れない。
「氷壁!!」
死を覚悟した直後、目の前に氷の壁が出現した。分厚く、美しい氷の壁だ。
だが、ゴールドライオの光線に比べれば、この分厚さも豆腐に近い。ゴリゴリと削られていく。光線を止めることはできそうにない。
(分かってる!!だからッ!!)
ミーネの狙いは別にあった。
あの光線を止めきる壁を作る自信はない。だが、光線を遅らせることと、射線をずらすことはできるはずだと自分に言い聞かせ、仲間を守るために龍力を駆使した。
「リゼル!!しゃがんで!!」
「!」
攻撃直後の硬直が解け、次の動作に移るまでの時間。
移動はできないだろうから、体勢を変えるまでの時間。
ミーネの欲しかった時間は、稼ぐことができた。
「ッ!!」
光線はリゼルの頭ギリギリを通り、そのまま彼の背後の棘を破壊し、地面に直撃。爆発した。
氷の強度を均一ではなく、場所で調節したのが功を奏した。リゼルのすぐ背後ではなく、数十メートル後ろまで光線の射線をずらすことに成功した。
「ギリギリ……!」
「っぶね~……」
レイズとバージルは肩を撫で下ろす。
しかし、先ほどの爪の威力や、光線の威力を見たことで、心臓はバクバクだった。
あれと至近距離で戦う必要があるのだから。
「ミーネ。助かった」
聞こえているかは分からない。が、リゼルは視線をゴールドライオから離さずに走り始める。
肝心のレイラは、自分の無事が確認できた直後に走り出している。これで十分だ。
(地形が悪い。移動しろ!)
口に出さなくとも、この程度のことなら雑な指示で仲間に伝わる。
仲間たちは足場がまだ破壊されていない場所まで走る。
「こっちです!」
「分かった!」
走りながら思う。棘が生えていて、本当に助かった。
何も物がなければ、一瞬で追いつかれてしまう。
「オォォォォオオオオ!!」
ゴールドライオは凄まじい速さで追いかけてくる。棘の障害物があるとはいえ、彼はここで生活しているのだ。
足が大地を踏むと同時に、重たい音が響く。
(ここよりもマシな場所まで!!)
敵は地形が崩れていても余裕で戦えるが、こちらはそうはいかない。
逃げ切ることはできないが、レイラたちはマシな足場を求めて全速力で走る。
レイラ、リゼルが先陣。レイズ、バージル、ミーネがその後を追う形。
位置関係敵に、マリナはゴールドライオの横にいる。
「…………」
マリナは追走し、自分の雷で怯ませることができないかと考える。
ゴールドライオは先頭のリゼルやレイラを追いかけている。自分は、標的になっていない。
最初はかなりビビり散らしていたが、今はやや落ち着いている。
イケる。
マリナは斜めに生えている棘に移り、龍力を高める。跳躍を得たい今、剣は邪魔だ。一旦納める。
どんどん加速し、そして、棘の先端付近で彼女は跳んだ。
「蒼雷龍翔!!」
それは、雷龍が空を飛翔するようだ。龍力のオーラが雷龍を模している。
ゴールドライオは直下。力も十分溜まった。
「今!!」
マリナは真下に両手をかざす。ヴン、と力の充満する音と共に、雷龍の紋章が描かれる。
「サンダードラグーン!!」
「!!」
紋章から凄まじい量の稲妻を弾かせながら、サンダードラグーンが放たれる。
落雷の比ではないほどの爆音を響かせながら、サンダードラグーンは吠え、標的に襲い掛かる。
それは、瞬く間にゴールドライオを貫いた。
ゴールドライオは一瞬怯んだように身体を硬直させる。足も止まる。
時間が、生まれた。
「マリナ!!」
「走って!!」
棘に着地し、そのまま走るマリナ。
マリナの攻撃は、ゴールドライオに通じた。
それを見て、リゼルの口角が上がる。
(……頼もしいな)
自分の無力さを嘲笑う一方、頼もしい仲間の存在に感謝するのだった。