―ゴールドライオ―
大気が震え、大地を揺らす。
金色の鬣をもつ獅子の魔物―ゴールドライオ―は、レイズたちを見つけていないにも関わらず、天高く吠えた。
「く……!!」
焼けるような殺気と刺すような殺気が入り乱れる。
ゴールドライオは十数秒ほど吠えると、ピタリと動きを止める。
その顔は間違いなくこちらを向いている。
(ッ!!気付かれた!?)
ゴールドライオは、無意味に吠えていたわけではなかったらしい。
吠えた際の音の衝撃波。それを感じ、『不自然に』波が遮られている部分を肌で感じていた。
長年ここを生き抜いてきた魔物だ。自然の棘による遮りか、それ以外による遮りかくらいの判断は容易だ。
一か八か飛び出そうとするレイズの肩をリゼルは掴む。
「!」
「早まるな。散れ」
最初から真っ向勝負は好ましくない。
この地形を利用し、仲間をバラバラに配置する。数の利を活かした戦いをするべきだ。
顎で合図し、仲間たちは棘の死角を利用して走る。
どうせ位置はバレている。なら、無音で移動する必要はない。多少音が出ても構わない。素早く移動しろ。
ゴールドライオはある人物へと狙いを定めた。
姿が目視できなくとも、今ならその足音で十分だ。
ゴールドライオは爪をむき出しにし、棘に腕をぶつける。
「!!」
棘は根元から粉々に砕け散り、マリナの姿が丸見えになる。
「え!?わたしッ!?」
ゴールドライオと目が合う。獣の金色の瞳に吸い込まれそうだ。
「マリナ!!」
「ッ!えぇ!!」
間抜けな声を出してしまうが、準備はできている。
フル・ドラゴン・ソウルのその先へ。完全なる龍魂を。自分とパートナーの力を可能な限り引き出せ。
蒼白い雷がマリナの周囲を駆け巡る。
(蒼雷龍駆!)
なるべく派手な龍力でゴールドライオの注意を引き付ける。
自分は、囮だ。
ゴールドライオの剛腕が来る。相当な重量なのに、非常に素早い。
マリナはそれをギリギリでかわす。雷の速度をプラスされていなければ、直撃していた。
「今よ!!」
ゴールドライオの攻撃をかわし、マリナは叫んだ。
今なら、こいつの攻撃を仲間が食らうことはない。
「だぁぁぁぁああッ!!」
「はぁぁぁぁあ!!」
太陽龍、風龍、光龍、月光龍、そして、氷龍。
5人の強力な龍の攻撃がゴールドライオを襲う。
しかし。
「!!」
剣は、その強靭な筋肉に弾かれてしまう。レイラの剣のみ、肉を少し裂いただけだ。
フル・ドラゴン・ソウルを超えた龍力で攻撃した筈なのに、通用しないとは。
「く……!!」
リゼルは舌を打ちながら考える。自分たちには何が足りなかったのか。
単純に力の差なのか?龍力の構築・生成が雑になっていたのか?龍力が十分剣先まで乗っていなかったから?精神的に動揺しているから?慣れない空間で戦っているから?
(……しっかりしろ。バカが)
多分、全てだ。
「すぐに移動しろ!!その場に留まるな!!」
どの要素がどれくらい足りていないのかは想像つかない。
自分の力を引き出し、パートナーの力も引き出す。そして、その力を十分に活用できなければ、龍力は巨大なエネルギーにはならない。
ただ、今はじっくり考えている暇はない。リゼルはすぐに指示を飛ばし、自分も走った。
「了解!!」
「あぁ!!」
「マリナもです!!今度は私が!!」
ゴールドライオの目の前にいるマリナは逃げられない。
ここは、唯一傷つけることができた自分の出番だ。敵も脅威だと分かっているのか、興味がこちらに向き始める。
目の前の獲物と、自分を傷付けた要注意人物。どちらも意識内に入れておきたいのが分かる。
「蒼雷龍駆!!」
雷のスピードはでないと攪乱できない。普通に走っても捕まるだけだ。マリナはレイラとの立ち位置を考えながらゴールドライオの意識をかき回せそうな向きに駆ける。
「!!」
目の前で駆け巡る稲妻に気を取られ、反応が遅れるゴールドライオ。
その一瞬に入り込み、レイラは龍力を解放する。
「光龍鋭剣!!」
レイラの剣は、敵の筋肉を少しだけ裂ける。
だが、それだけだ。筋肉を多少裂いたところで、あのガタイから考えると、かすり傷程度だろう。
単純に足りない。もっと強い力が要る。
(もっと……!!もっと!!)
とは言え、今この瞬間の目的はマリナを移動させることだ。
一秒でも時間を稼げれば御の字。
敵はこちらに完全に意識を向けた。
(よし……!!何とk)
レイラの思考が止まる。
ゴールドライオは前脚を震わせ、爪を剝き出しにしている。
光に反射し、爪が光る。あれは、ヤバい。
背筋に寒気が走る。
「!?」
もう、一瞬だった。
「レイラ!!」
「!!」
大地が割れた。
五本の巨爪を振りぬいたのだ。
「ッ……!!」
咄嗟にガードが取れたおかげで、大ダメージは避けることができた。しかし、それでもレイラの肩や足の皮膚は裂けた。血が噴射し、レイラはよろける。
「く……!!」
ガードしても、この威力。
レイラは顔を歪ませ、敵を睨む。ゴールドライオは反対の前脚を空に浮かせている。
「ッ!!やべぇ!!」
五本の巨爪が、レイラに襲い掛かる。