―一匹狼―
ギラス高原から老龍山へ。
レイズたちは頂上へと進行している。
そう言えば、この区域に来てから、「群れ」を見ていない。
「一体で強い、か……」
「ん?」
声に出すつもりはなかったのだが、バージルにそれを拾われる。
「何の話だ?」
「あ、いや……群れずに、一体でヤバい強さのがいるなって」
「あぁ。そういや単体だな」
バージルも道中のことを思い出し、頷いて見せる。
「群れであのクラスに出くわしたら本気でヤバいし……助かるな」
ゴリラーマンやデカ蛇、マッスルホークと発見した魔物の種類こそ少ないが、共通しているのは一体で行動していることだ。
実際、あの強さで二体三体とまとまって出くわせば、流石にキツイ。一体だけでも先ほど心が折れかけたのだ。
レイズたちは慎重に進んでおり、魔物とまともに遭遇していない。
この焼けるような殺意が一層強くなるかヒヤヒヤしながら進んでいる。
ただ、気持ちは先ほどより遥かに落ち着いている。
理由は、はやりこの二人。
レイラの言葉と、リゼルのいつもの顔。
この二人は平然としており、端からは動揺しているようには見えない。
魔物と積極的に戦いたくはないが、全く戦闘しないのも心許ない。
いきなりスゼイやフリアたちと戦うのではなく、魔物でこの区域でも戦いを経験しておきたい部分もある。
ただ、口には出さない。
レイズは息をゆっくりと吹いた後、口をしっかりと閉じる。
(言えば、絶対に『そう』なる……地雷だ)
フラグと言う奴だ。
分かりやすいフラグとしては、死体のフリをしてその場をやり過ごそうとする、仲間を先に行かせる(過去に四聖龍がそれをしている)、何かを犠牲にして力を得ようとする(リゼルの禁忌)、などがある。
(言わなきゃ無敵だぜ)
ただ、この世にはそんなこと無関係に起こるものがある。
この場合は、フラグがなくとも『それ』に遭遇すること。戦闘は避けられないこと。
リゼルとレイラが立ち止まり、「止まれ」の合図をする。
「!!」
姿勢を低くし、息を潜める。
(そんな……黙ってたのに!?)
思うだけでもダメなのか?レイズは無駄に考え事をしてしまったことを後悔する。
ただ、引っ張られてはいけない。気持ちを切り替えろ。
彼らの視線を追う仲間たち。
「…………」
彼らの視線の先には、獅子がいた。
当然、身体も大きく、筋肉隆々だ。
鬣は金色で、牙も爪も触れただけで裂けそうなほど鋭い。
その獅子は真っ直ぐこちら方面を見つめている。
(気づかれた……!!)
位置の特定には至っていないようだが、確実のこちらを意識している。
金色の鬣をもつ獅子―ゴールドライオ―は、ゆっくりとこちらに歩み寄ってくる。
一歩一歩が物凄い迫力だ。空気が一気に張りつめる。焼けるような殺気がさらに強くなる。物理的な接点はないのに、痛みを感じるほどだ。
「覚悟を決めろ。一戦、交える」
「了解です」
逃げられないと判断したのか、リゼルは剣を抜いた。レイラもすぐに続く。
「分かったよ……!!」
「やればいいんでしょ!?やれば!!」
気持ちを奮い立たせるように声を出し、剣を握る。
ドラゴン・ソウルと獅子が、ぶつかる。