表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
龍魂  作者: 熟田津ケィ
―霊峰と空―
579/689

―臆すな―


「あんなのを相手に……?」


喉が震え、ミーネはうまく声が出ない。


こんなにも壮絶な戦いは初めてだ。

強大な力のぶつかり合いは何度も経験しているが、所詮は人間ベースのものだ。龍力者同士の戦いとはまた別物の迫力があった。


「ッ……無理よ……!?」


彼女は自分を抱くようにして座り込む。


「ミーネ……」


今もゴリラーマンは勝利の雄叫びを上げている。

しかし、それはすぐに途絶える。


「おい!あれ!」

「!」


一瞬空が暗くなったかと思った次の瞬間、巨大な爪がゴリラーマンを踏んだ。

頑丈な地面に亀裂が入り、砂煙を巻き上げる。


「オォォォォオオオオッ!!」


ゴリラーマンも頑丈だ。

巨大な爪の主を押し返そうとする。


(あれは……鷹……?デカい……)


巨大な鷹。

聖域で見た怪鳥とは別の種類だ。膨れ上がった筋肉が離れていても分かる。マッスルホーク(本当はドラホーク)と呼ぶか。


急降下した速度に加え、膨れ上がった筋肉と、巨大な爪。

相当な攻撃力になったはずだが、ゴリラーマンは耐えた。


ただ、蓄積されたダメージのせいか、パワーは落ちているように見える。


(振り払えない……!爪が食い込んでいく!!)


マリナは目を細め、マッスルホークの攻撃を見定める。

ゴリラーマンの筋肉を裂き、しっかりと掴んでいる。

乱暴に振り払おうと藻掻いているが、無駄だ。飛行能力をもっており、自在に動けてしまう上に、マッスルホークはダメージを負っていない。


それなら、とゴリラーマンはマッスルホークを地面に叩きつけようとするが、力負けだ。

振り上げた拳が下がらない。


それのせいで重心がずれ、バランスが悪くなる。

それを見て、レイラは無意識に呟いた。


「くる……!」



攻撃手段が尽きたと判断したのか、マッスルホークは力強く羽ばたいた。

突風とともに、ゴリラーマンの身体が浮く。


連れ去る気か。ゴリラーマンはさらに暴れるが、落ちた体力ではフルパワーのマッスルホークを崩すことはできない。


(……!!)


ゴリラーマンはそのままマッスルホークに連れ去られてしまった。


「…………」


先ほどまでの戦闘が嘘のように、周囲は静まり返る。

焼けるような殺気は相変わらずだが、目視できる範囲に魔物はいない。


「冗談、でしょ……?」


マリナは引きつった笑顔を浮かべる。

ギラス高原の魔物とは段違いにレベルが上がっている。


一応こちらにはドラゴン・ソウルがあるとはいえ、彼らに通用するのだろうか。

全力を出したとしても、ゴリラーマンやマッスルホークなどの剛腕の犠牲者になりそうな未来しか見えない。



「…………」


リゼルは口を結んだ。


恐怖は伝染する。

ショックだったのは、マリナだけではない。ミーネは震えて動かないし、レイズやバージルも言葉を失っている。

レイラも顔色が悪い。殺気のせいなのか、戦いを見て怖気づいてしまったのか。

何にせよ、このままでは進めない。


四聖龍はこんな中進行しているのか。


「…………」


前向きな立ち止まりは歓迎だが、この立ち止まりは前向きではない。

心が、精神がすり減っていくだけだ。


仲間たちにかけるいい言葉はないのか。

リゼルは拳で額を叩く。しかし、出てくるのは尻をしばいて無理矢理進ませるような言葉ばかりだ。


そんな中、レイラは口を開いた。


「すごい……戦いでした……あれが……生存競争……なのですね……」

「はぁ?……呑気な……」


バージルは呆れる。あの戦いをそう見ることができない。

自分たちは、あのクラスの魔物と戦うことになるのだ。


「勝てる未来が見えねぇよ。俺は」

「え……?」

「え?って……見ただろ?」

「ですが、私たちは『彼ら』と戦いに来たわけではありませんよ?」

「!」


そうだ。

老龍山は、自分たちにとって通過点でしかない。


「でも、ここを通る以上、戦いは避けらんないわよ?」

「……まぁ、それはそうですが」


レイラは困ったような、何か言いたいような変な笑顔を浮かべる。


「大丈夫ですよ。私たちなら」

「!」


レイラの剣が光る。


リゼルは眩しそうに目を細め、口を開く。


「レイラ。お前……」

「戦いは凄まじく、最高峰のザ・野生!!って感じでしたが、私たちには仲間が、パートナーがいます」


剣はゆっくりと輝きを落ち着かせていく。


「龍力を上げてないのに、パートナーを近くに感じるんです。そして、『戦える』って言ってくれてる気がして……」

「レイラ……」


レイラ以外には分からなかった感覚だ。

しかし、彼女の落ち着いた話し方と穏やかな表情(顔色は優れないが)はその言葉の信憑性を高まらせた。

そして、彼女の背後に立っている、いつものリゼルのクールな笑み。


「……あぁ。分かったよ」


はやり、この二人の存在は大きい。

レイズたちは、二人を信じて立ち上がる。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ