―他人の目―
他人の目に興味はない。
興味というか、気になるのは、レイラからの評価だけだ。
ガキの頃はデスハイドがどうとか月龍がどうとか言われ続け、自分の無力さを呪い、他人の目を気にして生きていた。
しかし、今は違う。
他人の目よりも、レイラの目だ。
レイラに救われた命。
彼女のために使う。今までも、きっと、これからも。
小さいころに偶然レイラと出会い、レイグランズへと連れられた。
いつしか騎士団として隣に立つようになり、互いに背中を任せる間柄となった。
そして、『あの日』を境に、レイラの環境はガラリと変わった。
彼女自身は何もしていないのに、この世の負の感情の刃を突き付けられ、斬られていった。
実体のない感情の刃。身代わりになれるなら、いくらでも身代わりになる。しかし、それは不可能だった。
レイラは深く傷ついたが、それでも前を向く。目に涙を溜めて。流さないよう、必死に堪えて。
だから、今度は自分が支えになろうと、一層彼女に寄り添い、ほぼ付きっ切りで任務に当たった。
その甲斐あってか、レイラは少しずつ元気になり、笑顔も増えている。
レイラからの「ありがとう」の言葉。
形式上いうそれではない。心の底からの「ありがとう」だ。彼女は上辺だけで言葉を発せない。
その言葉に、リゼルは何度も救われていた。
そう。
レイラからの評価が全てだった。
紆余曲折あり、今はレイラ以外の年の近い仲間と任務に当たっている。
最初はそいつらのことは気にしていなかった。
嫌われようが、(自分の性格上可能性は低いが)好かれようが、どうでもよかったし、こちらも相手を大して見ていなかった。
しかし、時を重ねるうち、その考えは変わり始める。
『何時、この瞬間』という何かがあったわけではない。ただ、リゼルが気にしている人間の中に、彼らが、彼女らがいた。
自分が仲間たちにどう見られているか。
レイラが最優先なのは変わらない。ただ、その仲間にも頼られる自分に、信用される自分になる必要があると考えた。
「…………」
老龍山に入ってから、仲間たちの顔色が悪い。
レイラも最初は悪かったが、今は少し落ち着いている。
昔のリゼルなら、それだけ確認できれば後はどうでもよかった。
しかし、今は違う。
(できれば)守るべき対象がそこにいる。
彼らは、彼女らは不安になっている。
肌を焼くような殺気と、押しつぶされそうなプレッシャー。過酷な環境だが、不平不満吐き散らすことなく、ついてきてくれる仲間。
(あいつらは、僕たちを見ている)
無意識分からないが、仲間の調子は自分とレイラの調子に多少引っ張られているようだった。
自分たちの調子が良ければ、仲間は安心する。
それは、自意識過剰なのかもしれない。仲間たちは全員を等しく全員を見ているだけなのかもしれない。
ただ、その中で少しでも、環境に適応しつつある人間を見て精神的負担が減ればいい。
――だから、僕は自分さえも欺いて見せる。
背中や横から感じる仲間の視線。
その先にいる自分は頼れる人間なのか。
――進め。誰よりも前を。
そのために、彼は足を進める。
痺れる肌と潰れそうな身体を引きずりながら。
――顔を崩すな。不安を、感じさせるな。
表情を、一切崩さず。