―老龍山から浮遊島のルート―
レイズたちの進行スピードは大きく減速した。
進めなくはないが、一歩一歩進むのにエネルギーを激しく消費している感が強い。
肌を焼く殺気に加え、押しつぶされそうなプレッシャー。それを乗り越えて進んでいくためには、気を強く持ち続ける集中力が不可欠。
それに加え、龍界や聖域の時と異なり、今回はドラゴン・ソウルに頼っていない。
生身で進行している。
ドラゴン・ソウルを発動すれば、この程度のプレッシャーどうってことないの。しかし、ここは人間界である。
戦闘中でもないのなら、できる限り頼らない方が良い。
(自分の力でって思うけど……『どっち』がスマートなんだ??)
気になるのはエネルギー消費量の差だ。
ドラゴン・ソウルを発動させ、龍力を消費しながら楽々(と表現するには無理があるが)進む方が利口なのか。
意地でも平常状態で殺気とプレッシャーと戦いながら、エネルギーを消費し続ける方が利口なのか。
(分かんねぇ。けど、皆自力で進んでる)
レイズは仲間の顔色を窺う。
「…………」
リゼルとレイラは顔色が良い。流石、もう慣れ始めている。
こちらの様子を見ながら、歩く速度を調整してくれているのが分かる。
バージルは微妙な感じ。マリナとミーネはきつそうだ。自分も同じく。
自分たちは龍力だけでなく、戦闘経験も彼らに比べると浅い。その辺りの経験値の差がここで出てきている。
ただ、自分たちもそれなりの山場は乗り越えてきている。
エラー龍力者になる以前の経験値など、知れている。ただ、その経験の差は実際バカにできない。実際、ここで自力の差が表立っているのだから。
……ちくしょう。負けてたまるか。レイズは歯を強く嚙合わせる。
「おい、慌てんなよ」
「……分かってる」
レイズの微かな焦りを察したのか、バージルが声をかけてくる。
これ以上進むのは無理と判断したのか、レイラは休憩を提案する。
「……一旦休みましょう」
「あぁ」
レイラの提案なら、リゼルは反対しない。
そうでなくとも、彼女たちが辛そうなのは分かっていた。反対する理由がない。
「……あそこがいいな」
「よし。行くか」
レイズたちは、大地から伸びる棘の陰に身を隠す。
「ふぅ……」
マリナは座り込み、携帯食料をかじっている。
歩くよりも気持ちは落ち着いたらしく、少し顔色が良くなっている。
(幸い、魔物はいない……が、気配は変わらず、か……)
誰に言われるでもなく、リゼルは周囲の警戒だ。
魔物はまだ見かけないが、殺気を感じなくなった訳ではない。それに、時折魔物の叫び声が聞こえてくる。
どこかで争っているのだろう。それまでに仲間たちの体調が整えばいいのだが。
「……ところで、団長が言ってた話は本当なのか?」
タオルを頭に被り、棘に寄りかかっているレイズはそれの確認をする。
「団長の話?」
「この上から浮遊島に行く方法だよ」
「あぁ。それか」
浮遊島は老龍山の上に位置しているが、当然繋がっているわけではなく、上に浮いている状態だ。
こちらに飛行手段はない。どうやって行くのか当初は疑問だった。
「浮遊島の底に転移装置があるって……」
「あぁ。それが老龍山の頂上とリンクしているってな」
団長からはそう聞いている。
厳密には、浮遊島の地下の空間にその装置があり、真下にその装置のエネルギーが照射されている。
その照射先に入れば、浮遊島の地下に転移できるというもの。
よって、老龍山の頂上とリンクしているという表現は誤りである。現状を分かりやすく表現するためにそう言い表しているだけだ。
「ふ~ん……いまいちピンと来ないな」
転移装置なるものを見たことがない。
ただ、遺跡などで不思議なシステムは経験しているため、理解はできる。
「……装置がなかったら詰みだよな?」
「過去の資料からはあることが分かってるけど……」
「んなモン、今も生きてるかは別問題だろ?」
過去その転移装置があり、人の往来があったことは分かっても、今それが生きているかは別問題だ。
あれから何年経っているというのだ。壊れていても不思議ではない。
「……レイは『来い』と僕たちにアピールしている。十中八九、生きている」
リゼルはそう言う。
「…………」
確かに、レイはそういう人間だ。
完全に敵を拒絶するなら、わざわざ表立った行動はしない。
わざわざ島を浮かし、老龍山まで移動した。レイにはそれだけの大きな力があるし、手札もある。
侵入経路を死なせたままにするのは、考えにくい。
「ま、いざとなったら俺が頑張るさ」
「え?あぁ……頼む?」
バージルの謎の自身。
深くは言及しなかったが、秘策があるならそれでいい。
レイズは頭を垂れ、目を閉じる。
(一旦考えるな。今は『こっち』が優先だ)
エネルギーを回復しつつ、この空間に慣れる。
これが最優先事項だ。