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龍魂  作者: 熟田津ケィ
―霊峰と空―
574/689

―圧―

レイズたちは、全身で『それ』を味わった。




『空気が変わる』




幾度となく味わったはずの、この変化。

龍界、聖域、ギラス高原など、レイズたちは壮大な旅路で『それ』を経験している。

ただ、経験したからと言って、慣れるモノではなかった。

その度に身体は緊張するし、嫌な汗をかく。


「く……!!」


声にならない声が漏れるレイズ。


老龍山も例によって、空気が変わった。

エリア特有の空気感なのだろうか。


高原と山。

どちらも自然だが、老龍山の大元はドラゴンの亡骸だ。

その影響なのか、はたまた浮遊島の影響なのか、空気がどんよりとしている。そして、明らかな『圧』を感じるようになった。


「ッ……!」


恐怖や絶望ほど重たくないが、生体が直感している。

この環境に加え、何かの圧を。


(さむ……!)


レイズはぶるりと身を震わせる。

寒気が走り、体温が下がる。全身に鳥肌が走った。


「おい、気をつけろ」


彼の背中をバージルが叩く。


「気を強く持て。龍力に頼るか?」

「いや……どうすっかな……」


バージルは強気に言うが、表情は緊張している。


この変化を感じているのは、自分だけではなかった。

リゼルやレイラ、マリナとミーネも感じている。皆表情が険しくなり、敵が目の前にいるわけでもないのに身構えている。


ただ、このエリアの『圧』は、龍界や聖域に比べると、規模間や絶望感的には全然大したことはない。

問題なのは、人間界でこの『圧』を感じることだ。この近くには、ドラゴンも『神』もいない。したがって、魔物や環境だけでこのプレッシャーを放っているのだ。

肌が焼けるような殺気に、このプレッシャー。人間界であるが、この区域は人類には早すぎる。


しかし、敵である彼らは、その中でそれなりに時間を過ごしている。

つまり、敵はこの空気に慣れている。その上で、あの強力な龍力を操ってくるだろう。



(『あいつら』は平気ってことかよ……!)


今もこの場に留まるということは、そう考えるのが自然だ。


一歩も進んでいないのに、この疲労感。

レイズたちは、足が動かなくなる。


「この……!!」


足の震えが止まらない。

龍力に頼るか?否、これは、生身で乗り越える必要がある試練だ。


ここは、人間界。

強力な魔物や過酷な環境、浮遊島など非日常の中にいるが、間違いなくここは自分たちの世界だ。


「……先に行く」


ふぅ、と息をつき、リゼルが一歩足を進める。


「!」


一歩。

ただの、一歩。


それなのに、彼がずっと遠くに感じる。



「……レイラ」

「!……えぇ……!」


名を呼ばれ、彼女は一瞬目を見開くが、すぐに冷静さを取り戻す。


ドン、と胸を拳で叩き、ゆっくりと足を出す。


「……負けてらんねぇな」


バージルは手汗をマントで拭き、頬を叩く。


「おい、お前ら。行くぜ」

「!」

「うん!」

「分かったわ」


圧にビビり、一歩を踏み出せない仲間の背中を半ば無理矢理押すバージル。


「いくぜ……さん……にぃ……いち!」


そうだ。

超えなきゃならない。


リゼルも、レイラも超えた。

プレッシャーに、打ち勝て。


「せーのっ!!」


相棒に、ドラゴン・ソウルに頼らなくても、自分たちは、超えていける。

それを自分で証明しろ。


四人は、同時に老龍山の一歩目を踏みしめた。

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