―散る龍―
最初にやられたのは、ウィーンだった。
背後から一突き。
いくら四聖龍を名乗っていても、表面化しない殺気に気づくことはできなかった。
レイズたちのように、お互いを信じることまではできなくとも、少しの間背中を任せる程度までは気を許していた。
そのスキを完全に突かれた。
ただ、『あのクソ野郎』曰く、「ウィーンさんが一番弱いから」だと。
ウィーンが倒れた後、アリシアとシャレムとで応戦するが、全く歯が立たなかった。
最初から感じていた気味の悪い独特の龍力に苦しめられたことも大きい。それに、レイの部下だったことも関係しているのか、剣術、体術共に大きく進化していた。
今までの手を抜きまくっていたのかと想像するレベルで、アレクの戦闘能力は大きく跳ね上がっていた。
自分たち二人も光龍神殿に行き、価値観が変わり、進化したはずだった。
しかし、敵わなかった。
シャレム、アリシアなりの『完全なる龍魂』の理解。その力をアレクは上回った。
フランバーレ戦で形になってきたもの、それが実を結ぶことなく、自分たちは散った。
とにかく不気味なのは、アレクの強さだ。
あれだけの強さを誇っておきながら、ヒューズたちに敗戦するとは思えない。
らな、アイツも自分たちと同じ時期に果てしない進化を遂げたのか。
(ダメ……!!今のアイツとレイラたちを会わせてはダメ……!!)
あの『闇』は危険だ。
アレクの剣と相性が良いのか、今まで相手にしてきた闇龍使いの力とは違っていた。
光を吞み込み、絶望を与える。
それは、龍力の光だけでなく、精神面での光も同じだった。
あの闇と対峙した瞬間、自分の芯が揺らいだ。
命の恩人レイラへの思いも、自分の実力も、新たな決意も、志も、全てが揺らいだ。
自分の精神世界そのものを侵されてしまったかのような、ぐしゃぐしゃになっていった。
残ったのは、傷だらけの自分だけだ。
「…………」
戦いが終わり、崩壊した大地に血の匂いが充満する。
日が陰り、暗くなっていく空。
シャレムは「行かせまい」と必死に手を伸ばすが、当然届かない。
「く……ッ!!」
『クソ野郎』は剣を納め、こちらを見下した。
「……!!」
シャレムはそれを見て、全身に鳥肌が立った。
彼の眼は、ゴミを見るような、冷たく感情のないそれだった。
(クソ野郎ッ……!!見下してんじゃないわよ……!!)
悔しさに歯をこすり合わせるが、音が出るほどに力は残っていない。
「……!!」
シャレムの目から涙が流れる。
顔にべっとり付着した血と混ざり、流れ落ちる。
鉄と塩と。
複雑な味が口の中に広がっていく。
『クソ野郎』はすぐに死線を外し、老龍山を、浮遊島を見つめている。
そして、ゆっくりと『先』へと歩を進めるのだった。
「「…………」」
「ッ……!」
残された四聖龍の三人は、血の中でゆっくりと迫る死を待つことしかできない。
騎士団長が推した、アレクの裏切りによって。
アイツは、レイの忠実な部下だったな。
いつから裏切っていたのか。まさか、最初から?ヒューズたちに殺されかけたのも計画通り?
分からない。
最初から計算された上での行動だったのか。あるいは……
どちらにせよ、彼女たちがそれを知る術はない。
このまま、息絶えるのを待つだけなのだから。
誰にも、知られず……