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龍魂  作者: 熟田津ケィ
ーマリナ=ライフォードー
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銀世界のペルソス街道

フリーズルート騎士団基地を出発したレイズたち。

最北の町ペルソスに向かうため、ペルソス街道を進んでいる。


朝から移動移動が多く、気持ち的にしんどい。そこまで急ぐ用事ではないが、フリーズルートを観光する気分でも状況でもない。

進める時に、進んでおくべきだろうとのこと。それに、町に滞在し、レイラの存在がバレても不具合が多い。隠れ、逃げるように町の外に出た次第だ。


雪道を歩きながら、レイズは呟いた。


「『ペルソス街道』っつっても、街道って気がしねぇな」


ペルソス街道と言っても、ダルト街道とは違い、整備はあまりされていない。

そのことを言っているのだろうが、現実問題として、それはかわいそうである。


「……ダルト街道と同列に見るのは酷だぞ」


一応、バージルはフォローを入れる。

別に思い入れがある地ではないが、流石に。


「自然との共生です。これが折り合いでしょう」


困り顔で、レイラは言う。

積雪のため、都会のように整備する手間やコスト等が割に合わないのだ。


雪かきは、人間の往来ができる程度で済ませている様子だ。

それは騎士団の業務の一つだが、完璧にやろうとするとキリがない。住民とも話し合い、基準を決めている。


北のため当然と言えば当然だが、かなり寒い。そして、フリーズルートに着いてから、天候はずっと雪。

大雪ではないが、慣れない雪だ。体力を奪われる。


だが、まだマシ。それは、戦闘の少なさである。

町からまだ離れていないせいか、魔物には出会っていない。

歩きにくさや過酷な環境ではあるが、まだ平和な道である。


レイズは赤い鼻先をかきながら嘆く。


「あ~あ~……イヌゾリが使えたらな~……」

「……仕方ないだろ。出てないんだから」


フリーズルートからペルソス。又はその逆は、本来であれば、イヌゾリが使える。

しかし、そのイヌが最近落ち着きがなく、安全に運行できる状況ではないらしい。

原因は不明で、イヌが落ち着くまで休止しているとのこと。


バージルは、レイズの嘆きを何とか止めようとしていた。

ないものねだりをしても、虚しいだけだ。


「なんで落ち着きがないんだろうな?」

「知らねえよ。それが分かればこんなことになってない」

「そうだけど……」


レイズの言うとおり、なぜイヌたちに落ち着きがないのか、謎だ。

イヌゾリのイヌー薄い青毛のイヌ系統の魔物ーを扱う商売だ。

しつけがなされ、ある程度は安定して運営できていたはずである。


それなのに、今になって……


「……関係しているかもな。魔物の凶暴化と」


珍しく、リゼルが会話に入ってくる。


「え、でも解決したはずだろ?」

「『四聖龍の話では』な。それに、時期が重なっていると思うが」

「いや、近いとは思うけど、実際重なっているかは分かんないだろ」


リゼルは「重なっている」と表現したが、わざとである。

実際近しいだけで重なっていない可能性もある。だが、こんな偶然あるだろうか。

しかし、レイズはジンの話を鵜吞みにしているため、疑っていない。

それは、新四聖龍を疑っていないと同義。


「……可能性の話をしたまでだ。ジンの話で……いや、いい」


そう言うと、リゼルは小さくため息をつき、先を歩き始める。


(いや、だって、解決したって……)


何とも言えない心のモヤモヤ。

レイズは唇を尖らせる。


確かに、店主は『最近』落ち着きがないと言っていた。

最近の出来事で、心当たりがあるのは、魔物の凶暴化しかない。

しかし、それは秘密裏に四聖龍が解決したはずだ。


視察でも、騎士団基地で進行形で事件が起こっている様子はなかった。

騎士団はイヌゾリのことを把握しているのだろうか。ただ、交通手段はイヌゾリだけではなく、馬車もある。危機感を覚えづらい状況なのかもしれない。


しかし、現実は厳しい状況になっているかもだ。なんだか怖くなってきた。


「「はぁ……」」


レイズ、バージルは同時にため息をつく。

彼らのため息は、それぞれ別の心配事から来たものだ。


「もしかして……なーんかすっごい嫌な予感がするんだけど?」

「……当たってないといいがな」


以外にも、会話が漠然過ぎて、表面的には噛み合っている。

しかし、レイズは魔物の凶暴化について嫌な予感を感じており、バージルはフォリアの件で嫌な予感を感じている。

フォリアの件をレイズが知るわけないのだが、バージルはバージルで頭が回っていない。ただ、ここで下手に誤魔化さなかったのが吉。

会話はいったん終了していく。


(解決したから、基地長も安心したんじゃないのか?四聖龍の話を上に上げたのだって、それが証拠だろ?でも、コイツ(リゼル)は疑ってるっぽいし……)


魔物の凶暴化は、確かに鎮静化したはず。

だが、それは表面的な鎮静化で、まだ根本的な解決に至っていないとすれば……


「俺たちも危なくないか……?」

「あれは……?」


その時、レイラが足を止める。


「どうした?」

「…………」


レイズは彼女に問うが、答えは返ってこない。

彼女は、何か遠くの方を目を細めて見つめている。レイズもつられてそちらを見る。


「ん~~……?」


街道のずっと先。


「おい……嘘だろ……?」


はっきりとは分からないが、魔物が数体。いや、その更に奥に、数十体は確認できる。

狼のような魔物、人型の魔物、植物の魔物。

群れの種族や体の大きさに、一切統一性はない。街道を横切るように進んでいる。


「ケンカしないのか……?」


シンプルな疑問。

種類が異なる魔物の数々。同種族でも縄張り争いで戦いが絶えない自然の世界だ。

普通であれば、闘争がおこるはず。

しかし、不思議とその中で闘争は起こっておらず、纏まってノロノロと進んでいるだけだ。


「二人の嫌な予感は当たっていたようですね……」


あれが凶暴化に起因するものかは別問題として、嫌な予感は的中している。


レイズたちは身を低くし、見つからないように息を潜める。

隠れられる障害物は皆無。群れまで距離はあるが、油断できない。何もしないよりはマシだ。


「なぁ、これって異常事態か?それとも、ここは群れんのが普通なのか?」


地域によって、これが普通だったりする。

レイズには分からないが、レイラなら……


「小さな群れは実際あります。ですが、知る限り、あの種類の多さ、規模感は流石に……」


急ぐ訳ではないが、冬場の野宿はしたくない。

ただ、あの数の魔物の相手をするのは得策ではない。

自分やリゼルがいたとしても、多勢に無勢。数の暴力に負けてしまうだろう。


彼女の回答を待っているこの瞬間、レイズは身を固くした。


「風が……」


ここは風上。人間の匂いニオイが、街道を横切って歩く風下へと……

しかし、考え事をしているレイラは気付かない。


(中途半端になれば、動くに動けなくなります……(見つかる)リスクはありますが、命が最優先でしょう。一度報告を)


彼らの通過を待っていても、精神的に負担が大きい。

あの規模の群れが近くにいるかもしれないというプレッシャー。山道を縫うように街道は走っているため、視界も後々悪くなる。


一旦退いて、騎士団に報告した方が賢明だろう。

それに、撤退する時間込みでクラッツとも合流できる可能性もある。


進むメリットより、引き返すメリットの方が大きい。


「皆さん、一旦退いて、報告を……」


レイラはそう伝えるが、レイズたちは明後日の方向を見ている。


「皆さん……?」

「クソ……」


リゼルは腰の剣を手に取る。

その瞬間、鼻に獣のニオイが届いた。


「……え……」


彼らの視線の先には、中型の狼の魔物がいた。

中型のアイスウルフが、こちらに向かって猛スピードで走ってきている。

赤く血走った眼をギラつかせ、鋭い牙の隙間から涎をまき散らしながら。

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