―最後の指令―
浮遊島が老龍山へ向けて航行している頃。
レイは、ヒューズ、フリア、スゼイ、イクサスその他賛同者を自分のところへ集めていた。
全員が腰かけたところで、レイは口を開く。
「最後の指令だ」
「最後?」
「あぁ。俺がお前たちに支持する最後の指令だ」
最後の指令と聞き、「やっとか」と鼻を鳴らすスゼイ。
「その指令が終わった後、グランズを好きにしろ。それまでは、生かす」
「……へいへい」
「で、最後の指令ってのは?」
「十中八九、雑魚どもが攻め込んでくる。そいつらを徹底的に潰せ」
「?殺しは解禁か?」
「あぁ。最後の戦いになる」
喜ぶスゼイ。しかし、フリアには気になっていることがある。
「『戦い』になりゃ良いけどな」
今の自分たちとまともに渡り合える人間が多いとは思わない。
これは自惚れではなく、事実だ。
前々から自分たちは強いと確信していたが、ここ最近、自分たちの実力はメキメキ上がっている。
それはレイグランズ地下から出た影響かもしれないし、スゼイの定期的に起こる癇癪の相手をしているからかもしれない。
何にせよ、自分たちとそれ以外の連中との実力差は大きいと思っている。
「騎士団連中の隠し玉も大したことなかった。もうオレたちの敵はいねぇよ」
ヒューズは、四人組との戦いを思い出す。
そこそこ強かったが、脅威にはならない。
「あの分だと、あんたの息子ってヤツも底知れてるぜ?いいのかよ」
「…………」
ヘラヘラと嘲笑うヒューズを冷たく睨むレイ。
彼はそれを意に介さず、続ける。
「どうやって殺すか……いったん勝ちをチラつかせるのも悪くねぇ……」
「…………」
どうやって絶望に突き落とすか考え始めるヒューズたち。
レイは何も言わない。
(……バカが)
とだけ毒づいておく。
レイズたちを甘く見ない方がいい。それは、実際に剣を交えたからよく分かる。
全員と戦ったわけではないが、皆必死に努力して実力をつけている。
実際ヒューズたちのレベルまで到達しているかは不明だが、可能性はゼロではない。
「レイ。あんたは?」
「はは、奥にでも引っ込んでろよ」
ヒューズは冗談交じりに言う。
レイがいては、遊ぶ回数が減ってしまう。
「そうさせてもらうか。が、一つ気になることがあってな」
「……気になることだと?」
レイほどの男が気になるものとは。
どうせ聞いてもはぐらかすだろうが、フリアは一応聞いてみる。
「敵の話か?」
「いや。確定でもない。が……そろそろ『芽』が出始める頃だ」
「……?」
浮遊島に植物園でも作る気なのか?フリアは少しだけ首を傾げる。
レイは先に立ち上がり、その場を後にする。
そして、天を仰ぎ、ほくそ笑むのだった。
(……せいぜい荒らしてくれよ?)