―見つけた―
「…………」
暗い。そして、深い。
闇の底。
「…………」
フランバーレは、身体に力を入れるが、無反応だ。
身体が思うように動かせない。
なぜ、こうなったのか。そこで、彼女は思い出す。
(そっか……負けたんだ……)
最後の記憶。
それは、小娘に負けた記憶。
腹部に大きな衝撃を受け、意識が飛んだのだ。
(死ん……だ?の……いや……違う……)
一瞬「死んだのか?」とも頭を過るが、違う。
殺されてはいないらしい。身体は動かないが、思考は働く。
「強かったな……ほんっとうに……」
唇が動く。
表情筋が緩やかに動く。フランバーレは優しい笑みを浮かべる。
「まだ、いる?……起きて……渡さないと……」
首を動かす。
思うようには動かない。が、諦めない。
(渡さないと……!)
何度も、何度も動かす。そうしているうちに、身体に力が戻り始める。
拳が動く。首が上がる。四肢も動き始める。
そして。
「はっ!」
弾かれるように、フランバーレは目覚めた。
「ッ……」
腹が痛い。
咄嗟に腹部を押さえる。と、そこには包帯が巻かれているのが分かった。
衣服が一度脱がされたのか、無様に直されていた。素人でももっと綺麗に着直すと思うが。
痛みに耐えながら起き上がると、髪が外ハネした女の子と目が合った。
「……起きたの」
「え、えぇ……」
冷ややかな目で見られ、少し怯む。
しかし、当然だ。それだけのことを、自分たちはしてきたのだから。
今は命あるだけ感謝しよう。
「レイラ!起きたわよ!」
「!」
その様子だと、レイラはまだその辺にいるらしい。良かった。間に合った。
女の子の声に反応し、レイラが駆け寄ってくる。
あれだけの力を出した後なのに、走る元気があるのか。
全く、本当に驚かされる。
「フランバーレさん……」
彼女はこちらを警戒しているようで、少し離れた場所から声をかけてくる。
「気をつけて。何するか分からないわ」
警戒しているのは外ハネの女子も同じだ。
いつでも剣が抜けるよう、手を剣の近くにおいている。
「……もう、手は出さないわ……負けたんだし」
信じてもらえるか分からないが、本心だ。
悔いはない。最高の力で戦えた。その結果だ。
フランバーレは腰に手をやるが、剣が納まっていない。
そうか、飛ばされたままか。
「えっと、剣は……」
「あそこよ」
外ハネの女子は顎で示す。
彼女たちの後方に仲間が集まっており、そのさらに後ろに剣が転がっているのが見えた。
「渡してくれない?」
「は?何で」
「……警戒するのは分かる。けど、もう戦わないから」
彼女の問いには答えず、お願いするように話す。
これだけは、譲れない。
「はぁ……ま、その状態なら負けないでしょ」
こちらの傷口を見て制圧できると考えたのか、仲間に持ってくるよう指示する外ハネ女子。
しかし、後方に控えている仲間が剣を取ろうとするが、持ち上がらない。
男子二名が入れ替わっても同じだった。闇色の髪をもつ少年は剣に触ろうともしない。念のためか、サイドテール女子にも代わるが、同じだった。
「何やってんの……」
はぁ、とため息をつき、外ハネ女子が剣を握る。
しかし。
「……え?」
持ち上がらない。
「ちょ、え……?どうなってんの?」
どれだけ力を込めても、うんともすんとも言わない。
その様子を見ていたフランバーレ。あれは、恐らく……
「……レイラ。貴女が持って来て」
「え?はい……」
フランバーレの指示に従い、レイラに代わる。
すると。
「え?え?」
「なんで!?」
いとも簡単に持ち上がったではないか。
4名挑戦して持ち上がらなかった剣が、何事もなかったかのように。
中々持ち上がらなかったのを見ていたため、馬鹿みたいに力を込めてしまったが、不要だった。
むしろ、軽い。軽すぎる。
勢い余って大勢を崩してしまうほど軽かった。
レイラたちは困惑しながらも、剣を持ってきてくれる。
「……どうぞ」
「……ありがとう」
剣をゆっくりと納め、床に置くフランバーレ。
「あの……フランバーレさん」
「なぁに?」
言いにくそうなレイラの顔。
「その……『軽すぎ』ませんか……?」
「!」
フランバーレは顔を上げる。
「え!?いや、変ですよね!?あまりにも『重さ』を感じなかったので……」
「…………」
やっと、見つけた。
フランバーレは、無意識に涙を流していた。
「え……!?」
「何泣いてんの……」
フランバーレは涙を拭き、剣をレイラに差し出す。
「……レイラ様。この剣を貴女に捧げます」
「え?私に……ですか?どうして……」
「貴女が、真なる光龍派だから」
「え……?」
聞きなれない言葉に、レイラたちは口を開けたまま固まってしまうのだった。