―実験―
「……不甲斐ないわ」
「わたしも……」
一対一の真剣勝負。
フランバーレに敗北した二人は、手当てを受けていた。
「……強かったな」
ウィーンはフランバーレとの戦闘を思い出す。
自分は炎龍であり、戦うことはなかったが、見ているだけでも相手の実力は十分分かる。
「えぇ。けど、ちょっと挑戦しすぎたわ」
『挑戦』という言葉に、アリシアは引っかかる。
「え……やっぱり?」
「え……もしかして……あなたも?」
顔を見合わせるシャレムとアリシア。
ウィーンは頭に「?」を浮かべていたが、何となく分かる。
「お前たち……まさか」
「えぇ。新しい力の実験をしてたわ」
何の気なしに訪問した光龍神殿。
そこで、シャレムとアリシアの価値観はひっくり返った。
光龍神殿で見聞きしたことをベラベラと喋ったりしないが、彼女たちにとって、素晴らしい経験だった。
そして、そこで得た新しい知識や龍力を試したくて、フランバーレ戦ではそれの練習をしていたのだ。
勝つことよりも優先して。それには、一応理由がある。
「……フランバーレは敵だったけど、今は違うっぽかった。丁度いい練習相手だったわ」
そう。
以前のフランバーレは明らかに敵の動きのそれだった。
しかし、今回は多少事情が違っていた。
「それで、感じは?」
半分呆れながらも、ウィーンは成果を問う。
「もちろんよ。最終の詰めは、これからやるわ」
「奇遇ね。わたしもよ」
笑い合うシャレムとアリシア。
それを黙って見ているウィーン。
「…………」
勝負には負けたが、全く悔しがっていない。
彼女たちは、何か別の目的があって戦っていたようだった。
「はぁ……ヒヤヒヤさせるな」
「ウィーン。アナタは完璧なの?」
「……完璧と言われるとアレだが、あいつの龍力にはついていけたレベルだ」
「……全くです。ここで負けているようでは足手まといですよ」
「アレク……」
フランバーレとは深く戦わなかったらしい。
消化不良な顔で近付いてくる。
「プライドの高いあなたが『勝ち』よりも優先した『何か』……見せてもらいますからね?」
「当然でしょ。全然悔しくないといえばウソだけど……こちとらもうそんな次元で剣を握ってないのよ」
シャレムは愛用している剣を強く握りしめる。