―光龍の女と闇龍の男―
場所は変わって、ギラス高原中盤。
「…………」
血を吐き、地面に横たわる二人の女性を見下ろし、戦場に立っている女はため息をついた。
「はぁ……貴女たちじゃない」
二人の女性は死んではいない。
勝てはしたが、何かスッキリできない勝ち方であった。
そこが心残りである。
「シャレム!アリシア!おい!」
茶髪の男が女性に駆け寄り、身体を叩く。
「……殺してないわ」
「この……!」
男が剣を抜こうとするが、動きが止まる。躊躇っているようだ。
「……行きたいなら、好きにすればいい……『無駄』だと思うけど」
「く……!」
シャレムとアリシアを倒した女。
フランバーレ=レノア。
自分に勝てないのに、フリアやスゼイ、イクサスなどスラムのメンバーに勝てるとは思えない。
命の無駄使いだ。
「……それは、どうでしょうね?」
新たな声。仲間がまだいたのか。
「…………」
不気味な剣を持つ白髪が銀髪か分かりにくい男。
殺意剝き出し。こいつは、強そうだ。
「そこの二人もそうです。負けはしましたが、アベレージの力量ではトントンだと思いますが」
「なら、なんで私は立っていて、二人は寝ているの?」
「言ったでしょう?『アベレージ』だと。最高到達点で負けた。それだけです。それか、また別の理由があって負けたのかも」
「…………」
確かに、二人は強かった。
事情があり、一対一の真剣勝負を提案していたため、勝つことはできたが、チーム相手では負けていたと思う。
それに、この心の『しこり』。これが気になる。
「……あなた方の底力には本当に驚きますよ」
「そう」
ゴゴ、と音を立て、男の剣に闇のオーラが集う。
「今……試してみても?」
笑みを見せる男。不気味な力だ。
フランバーレの龍が光だからそう感じるだけかもしれないが。
「……生憎、光龍以外は興味ないの」
「そう言わず……に!!」
問答無用。
男が一瞬で消え、目の前に現れる。
「!」
闇の剣と光の剣がぶつかる。闇のオーラが衝撃で弾ける。
彼女を纏う光のオーラを侵食していく。
(吞まれる!)
フランバーレは地面を強く踏みしめ、瞬間龍力を爆発的に上げる。
「この!」
金属音を響かせ、男の剣を弾いた。
「ッ……!」
「……意外と、でしょう?」
肩から流れる血。
それを見て、男は不気味に笑う。
「ふん……」
彼女は手で傷口を抑え、止血する。
この程度に傷、どうってことない。が、確かに。
「……確かに強そうね。でも、他はどうかしら?」
光龍使いの女二人は当然のこと、今の攻防のスキに倒れていた女二人を戦場から運んだ男。
その三人の戦闘力は予測できる。
「自分で言うのもあれですけど……けっこう強いですよ?」
ゾゾ、と剣が不気味に震える。
あれは、危険だ。ピリピリと身体が警告音を鳴らしている。あいつに関わるな、と。
「何度も言うけど……」
「……ハイハイ。つまらない人だ」
本当に自分に戦う意思がないと判断したのか、男は剣を納める。
不気味な気配が消え、フランバーレの身体のピリつきも治まっていく。
男はそのまま背を向け、静かに去っていく。
「…………」
フランバーレはその背中を見ていることしかできないのだった。