―ギラス高原の奥―
浮遊島は、ギラス高原の奥の山に移動し、今は落ち着いている。
その山は、『老龍山』と呼ばれている。
昔の戦争で亡くなった老龍。その後に山ができたと伝えられている。
自然の山には負けるが、大きい山だ。世間一般的にも有名な場所である。
ギラス高原の奥に位置しているため当然であるが、人間が立ち入ることはまずない。
レイズたちは、ギラス高原を真っ直ぐ進んでいる。
今回は浮遊島という目印があるため、迷う心配がない。
それに、所々魔物が倒れており、道標もある。四聖龍に襲い掛かり、返り討ちにあったのだろう。
「……(魔物にしては)大きいな」
「あぁ。これをやったのか」
中型の凶暴そうな魔物も、血を流し倒れていた。
よく見れば、戦闘の爪痕も確認できる。
ただ、それほど深く残っていない。すなわち、即勝負がついたことである。
「……楽でいいわ」
緊張が解れ、余裕が見え始める。
マリナは今の感想を率直に述べた。
「ま、確かに」
景色を見ながら歩いているだけだ。
ギラス高原の空気感は相変わらずピリついているが、道のりは易しい。
勾配はあるものの、角度は緩やかだ。
「……先ほどの魔物ですが」
「ん?」
「私たちが相手だったら、どの程度の戦闘になるのでしょうか?」
「……それは」
レイラの疑問。
確かに、ギラス高原に入ってから一度も戦闘を行っていない。
魔物が強いと聞いているが、実際どの程度なのか分からない。
「状況的に、四聖龍との戦闘は長引いていません。私たちも同じ程度で戦えないと……」
龍界、聖域に足を踏み入れ、龍の期待も背負っている。
特訓に特訓を重ね、強くなったのは間違いない。
だが、今の実力とこの地の魔物との戦闘力差が全く分かっていない。
楽勝なのか、同程度なのか、或いは、やや負けているのか。
楽勝であれば問題ないが、それ以外なら……
「もし、キツイ戦いなら……」
当然だが、魔物よりレイやフリアたちの方が数段強い。
ミーネの顔に不安の色が浮かぶ。
「……おい」
リゼルが振り返り、口を開く。
「余計なことは考えるな。僕たちは強くなった」
「ですが……」
レイラの気持ちも分かる。
今の自分たちの立ち位置は知っておきたい。
ドラゴン・ソウル状態で戦えるのか?フル・ドラゴン・ソウル状態になる必要があるのか?はたまた、完全なる龍魂クラスまで高めないと通用しないのか、などなど、心に纏わりつく不安は確認しないと拭えない。
「……老龍山までしばらくかかる。そんなに気になるなら、戦ってみたらどうだ」
リゼルの意外な提案に、レイラは眉をひそめる。
「……いいんですか?」
「……気になるんだろ?それは僕も同じだ」
「リゼル……」
レイズやバージルだって興味はある。
自分の力と、この地の魔物の戦闘力。
それに、一回も戦わずして相対するより、身体を動かしてからの方が調子は良くなる。
もちろん、体力に気を遣う必要はあるが。