言ってはいけない言葉
決戦前夜、フォリアとの通話を終えたバージル。
(……言う。言うんだ)
この戦いが終わったら、彼女に告白する。今までは色々あって時間が取れなかったし、胸を張れる自信がなかった。が、今は違う。
国を救った英雄となれば、自身もつく。レイ討伐は、国にとってもドでかい仕事。片付けば、時間もできるはず。
「……落ち着かねぇな」
別に告白すると伝えた訳ではないのに、気持ちが高ぶってしまったバージル。
夜風に当たれば落ち着くだろうと、部屋を出る。
「バージル!」
「がんばれ!おれはこっちで守りを固めるんだ!」
(レイズと)バージルが最前線へ向かうことは皆が知っている。
だから、すれ違う団員に激励の言葉を貰う。しかし、それも今は気持ち的に「ちょっと嫌」だった。
「はは、ありがとな」
引きつった笑みと、乾いた笑い。
そんなこんなで団員をかわし、屋上まで逃げてきたバージル。
と、そこには先客がいた。
「ッ!?」
驚いた顔で振り向く男性団員。いや、そんな第三者ではなく、見慣れた顔の一つだった。
その彼も逃げてきた矢先なのか、自分の顔を見るなり安心したように崩れる。
「……なんだ、お前かよ」
「レイズか」
考えることは同じかよ、と毒づきながらも、隣に座るバージル。
「落ち着かないか?」
「そりゃぁ、な……」
レイ討伐部隊の一人になるとは。騎士団に入ったときとには考えもしなかった。
そもそも、レイが父親であることも考えていなかったが。繋がりを隠したまま、この日がきてしまった。
明日、決着をつける。
「ホントは寝た方がいいんだろうけど。全ッ然寝れねぇんだ。外に出ようかとも思ったけど、すぐ捕まっちまう」
「で、ここまで逃げてきたのか?」
「まぁな」
レイズとバージルは、歴だけで言えばまだまだ新人。それなのに、レイラと同じ部隊で動いている。
それを知る物からすれば、あまり気分のいい存在ではない。よって、妬みを言われることもあった。
しかし、それを実力で黙らせた。
団員歴はひっくり返らないが、龍魂―ドラゴン・ソウルーのレベルは努力次第でいくらでもひっくり返せる。
「お前も似たようなモンか?バージルさんよ」
「あぁ」
夜風を浴びながら、光り輝くレイグランズの街並みを眺めているレイズとバージル。
相変わらず、町中明かりでいっぱいだ。決戦前夜ということもあり、より賑わっているように感じる。
別に会話もなく、それぞれ気持ちを落ち着かせている。
「「…………」」
一人なら気にならない時間だ。しかし、仲間とは言え、この空間に一人存在している。
沈黙が嫌になったのか、突然口を開くバージル。
「俺……」
「?」
「この戦いが終わったら、フォリアに告白する」
「ッ……えッ!!!!!!??????」
光の速さでバージルを見た後、光の速さで戻すレイズ。
無意識に顎に手を当て、思考を走らせる。あまりにも唐突すぎて、龍魂使用時よりも走らせているかもしれない。
今、告白と言ったか?酷薄……刻薄……濃く吐く……
(いや、告白だよな!!??)
何か言おうとしたが、言葉が出てこない。口をパクパクさせているだけ。魚魂ーフィッシュ・ソウルーでも発言したか、と言われそうなレベル。
バージルは間違いなく、告白と言った。
告白とは、かくしていた心の中を打ち明けること。即ち、「好き」と言うことと同義ではない。
が、多くの場合、それと捉える。
(つ~か、話の流れ的にもそうだし、二人を知ってるしな……)
今回のケースも例外なく、「好き」と伝える行為のことだろう。
(いや、でもそれ……戦う前に言って大丈夫なのか?)
ふと疑問に思うレイズ。
帰ったら○○系は、戦前に口にしない方が良い言葉ベスト3に入る言葉ではなかったか。
(いや、本人が前にいないからセーフなのか??)
告白相手はフォリアだ。俺は関係ない。だから、俺に言うのは例外的にセーフが適用されて、大丈夫、みたいな?
一応、確認しておくか。
「それ、フォリアには言ったのか?」
「あぁ」
「な゛ッ!?」
はい。キャンセル。アウトだろう。
「あ、いや。話そうってだけ」
「あ?あぁ……」
なら、セーフか?
このテの話題に疎すぎて、どう返せばいいのかも分からない。
また、言っていい話題だったのかも分からず仕舞いだ。
「……国を救った英雄が告白するんだ。最強だな」
それ以前に、フォリアはバージルのことが気になっていたように思うが……面白くないし、伏せておくか。
……と言うか、何だこの気持ちは。仲間なのに、なんか腹が立ってきた。心を落ち着かせに来たはずなのに、これでは逆効果だ。
「……だといいけどな」
バージルは彼女の気持ちに気付いていないのか、不安げな表情だ。
「平気だって。つか、それならぜってぇ死なねぇな」
生きて帰らなければならない理由が増えた。
想像を超える戦いになりそうだし、正直厳しい戦いになるだろう。それでも、希望は捨ててはいけない。
が、これ以上バージルの惚気話を聞いてやる理由がない。さっさと退散してしまおう。
「……俺、戻るわ。眠くなってきた(大嘘)」
「そうか。お休み」
「あぁ。お休み。大事にしろよ」
「まだ(告白)してねぇよ」
バージルの話を聞くくらいなら、団員に激励されて部屋に戻った方がマシ。
レイズはさっさとその場から退散するのだった。
彼が言ったのは、戦前に言ってはいけない言葉にハマってしまうのか考えながら……